AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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白髪をリーゼント風にまとめ黒のサングラスできめたジム・ジャームッシュ監督。67歳とは思えない若々しい風貌と同様、彼の映画は彼にしか作れない斬新でセンスの光る刺激的な芸術作品ばかり。ジャームッシュ風という言葉でしか表現できないのだ。新作「デッド・ドント・ダイ」では、ゾンビ映画に挑戦する。
「ゾンビというのは有効な比喩的表現だよ。事態に対処できない人間の無能さや、共感できない、魂のない器になり下がった人間性を描く上でね」とゾンビ映画のファンではない彼が、ゾンビ映画を作ることになった理由を明かす。
「映画史におけるゾンビのルーツはジョージ・A・ロメロ監督だ。それ以前、ゾンビは呪術の一部でしかなかった。ところがロメロ映画以後、ゾンビは操れない存在となった。われわれ人間が生み出した物、フランケンシュタインやゴジラのように人類が犯した愚行の結果の犠牲者なんだよ」とゾンビ論を唱える。
アメリカのとある田舎町。一見平和に見えたこの町にシェールオイル採取のためのフラッキングによって次々と異変が起こり、動物が姿を消し故人が墓地から蘇る。3人の警官(ビル・マーレイ、アダム・ドライバー、クロエ・セヴィニー)は、命がけでゾンビの攻撃から町を守ろうとする。ゾンビは生前同様愛したコーヒーやワイン、Wi−Fiなどを求めて町を徘徊、その光景は恐怖というより笑いを誘う。これはトランプ政権下の現代アメリカの風刺劇なのか。
「トランプ大統領には関心がない。ただ反トランプの友だちが、彼の動向を追い時間を無駄遣いしているのは心配だ。僕にとって重要なのは環境破壊の問題だ。企業の支配的な社会状況が生み出した結果だよ。現実の背後にはトランプ政権があると思う」
さらにこの世界に対しての私的な思いを明かす。