感染症の世界的な流行はこれまで30~40年周期で発生してきたが、そのたびに人類は新種のウイルスに悪戦苦闘してきた。『感染症の世界史』の著書がある元国連環境計画上級顧問の石弘之さんは、歴史的にみて「最大のウイルス対策は正確な情報の伝達にある」と言う。

「『ここまではわかっている』『これはまだわかっていない』といった形で誠実に情報を発信していくしかない。信頼できる情報発信がないと、みんな情報を消化しきれなくなります。ちぐはぐな発言やころころ変わる政策などは、ウイルスに味方をするだけです」

 2017年に東京都が報告した「健康と保健医療に関する世論調査」によると、保健や医療に関する情報の入手方法は「テレビ」が78%と圧倒的な割合を占める。石さんが言う。

「テレビが流す新型コロナウイルスに関する情報が、そのまま信じられてしまいます。閣僚の記者会見よりも、ワイドショーのコメンテーターの解説が信じられやすいということです」

■メディアの距離の近さ

 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院の西田亮介准教授(36)は、日本のメディア環境の特殊性として、「テレビの影響力の大きさ」を指摘する。

 ざっくりとした計算として「視聴率1%で100万人」とよく言われるが、それ程の視聴者がいるのは世界的に見て珍しい。また、インターネットとマスメディアの距離の近さも日本の特徴だ。ネットの話題がテレビなどで取り上げられ、再度、ネットでバズる。

「このようなマスメディアとネットのある種の共犯関係が、耳目を引く情報が大量に流通する情報過多の環境を生み出していると思います」(西田准教授)

 では、どうすべきか。

「個々人が頑張って何とかしようとするのは基本的に難しい。政府の広報とメディアの切磋琢磨が重要です」(同)

 政府広報でいうとSNSを通じたリスクコミュニケーションが他国と比べて十分ではない。WHOにしろCDC(米国疾病予防管理センター)にしても、SNSを通したコミュニケーションに積極的だ。

 日本でも政府のSNS発信は始まっているが、政府や厚生労働省のアカウントのフォロワー数はまだ少なく、十分にリーチしていない状況だ。西田准教授が続ける。

「しっかり読まれつつ信頼され、社会の不安の声にこたえられる適切なコミュニケーションをSNSでも行う必要があります。同時に、政府がSNSによるコミュニケーション技術を向上させると、世論を誘導するような危険性もあるため、メディアが注意深く報道していくことも必要です」

(編集部・小柳暁子)

AERA 2020年3月30日号