これ、本当です。わたし自身の話をすると、最近4歳の娘と一緒にパンを作ったんですよね。娘の大好きなアンパンマン型のアンパンです。娘が満面の笑みでアンパンマンの鼻と頬をこねて丸めて、心から楽しそうにしていたので、作ってよかったとしみじみ感じました。下の息子をおんぶしながらパンをこねるのは重労働だったけど、娘の笑顔が見られたからそれで帳消しだ──と、パンごねで凝った肩をほぐしながらボウルや鉄板を洗っていたら、アンパンを食べ終わって暇を持て余していた娘がトコトコやってきて、言うんです。「〇〇ちゃん(自分のこと)、またパンを作りました。何パンでしょう?」って、ぎゅっとむすんだ両手を突き出して。え、まだ生地残ってたっけと慌てて「またアンパン作ったの?」と聞いたら、娘は手のひらをぱっと開いてこう答えました。「ぶっぶー、正解はメロンパンでした!」。彼女の小さな手のひらには目に見えないメロンパンがちょこんと載っていて、顔には本物のアンパンを作っていたとき以上の笑顔が浮かんでいました。子どもってすごいな、と思いました。想像力さえあれば、どんなパンも作れるんだ。空想上のパンは本物のパンよりずっとおいしいに違いない。わたしが肩を痛めながらアンパンを作った意味って一体──。ま、おなかが膨れたからいいんですけど。

 おもちゃもそうですよね。高価なおもちゃを買い与えても、子どもはすぐに飽きちゃいます。むしろおもちゃの入っていた空き箱や包み紙のほうに興味を示したりして。想像力次第で段ボールがバスになり、親の足がバス停になります。親の凝り固まった想像力を、遥かに超える楽しみ方を考案します。

 だから、休校中で家にいるからといって、特別なことをする必要もないのかなと思うのです。さまざまな企業や教育・研究機関がコンテンツを無料提供していて、わたし自身、すぐに飛びつきました。各社のサイトを渡り歩き、「こんなに優れた教育コンテンツがあるんだから、活用しないともったいない」と焦りを覚えました。でも、この世の機会を余すことなく子どもに与えるなんて不可能です。もちろん子どもたちから教育の機会を奪ってはいけないとは思いますが、どこかで「全部はムリ」と割り切らなければなりません。わたしを含め、生真面目な日本人ほど「子どもに最高の機会を与えてあげたい」「休校期間を最大限に楽しもう」と気負ってしまう気がするんですが、それより「子どもは退屈させるくらいでちょうどいい」と考えたほうがよさそうです。子どもの想像力をはぐぐむために、そして親のメンタル安定のためにも。

◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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