自己主張の強いフランス人のスタッフを束ねるリーダーシップの強さと、客への気配りと責任感、すべてで完璧を目指す几帳面さを兼ね備えたシェフだ。

「11年にここで開店した当初は目新しさを追求しました。科学的な手法を採り入れたり、一つの食材に三つの強い香りを入れたりと冒険を繰り返しました」

 小林さんは、そう振り返る。

 翌年、一つ星を取ったものの、二つ星までは試行錯誤だった。

「結局、いろいろ試してシンプルな料理に落ち着いたんです。流通もよくなって新鮮な食材が届くようになりましたし、やはり素材を生かそうと」

 加える調味料も開店当初の半分程度に減った。17年に二つ星を取った際、ミシュランからは「この方向性でいったらいい」と評価を受けたことも背中を押した。

 ミシュランガイドの総責任者、グウェンダル・プレネックさん(40)は「圭のことはパリで店を開く前から注目していた。完璧という概念を体現するシェフだ」と評価する。

 小林さんがいま描くのは世界展開だ。

「自分のブランドを立ち上げて、アジアや米国にも進出したい。日本にもお店を開きたいですね。おいしいとはどういうことなのか、それを自分は常に考えていて、その問いかけをしたいんです」

 割烹のようなスタイルならどんな味わいが生まれるのか。そもそも空間や土地は、人々の味覚にどんな変化をもたらすのか。そして料理は地域活性化にもつながるのか。パリの「KEI」の厨房で育てた人材と、その答えを見つけるのが次の目標だ。(朝日新聞パリ支局長・疋田多揚)

AERA 2020年3月23日号