そう考えれば、50万人にスピーキング・テストを一律に課すことがいかに無理の多いことか、おわかりいただけるかと思います。必要だと思う大学が、必要だと思う適切なスピーキングの力を個別に測るのが妥当だというべきです。

 それでも、一律に課すことが必要ならば、大学入試センターがシステムを開発し、実施するのが適正です。リスニング・テストは公平性を担保できるまで実験を重ね、構想から実現まで何年もの時間をかけました。スピーキング・テストの開発にはもっと時間がかかることを覚悟したうえ、基礎研究から始め、我が国独自のテストを開発することには大きな意味があります。入試の大前提となるのは、実行可能性、公平性、信頼性の三つです。これらは絶対に外せない条件です。リスニング・テストはICプレーヤーの登場によって実現しましたが、スピーキングではAIが鍵を握るのではないかと思います。

 多くの受験生が受けることになったであろう、民間試験のスピーキング・テストを見ると、コンピューターを使った音読とわずか数問の質問に対する短文の回答です。この程度の内容であれば、授業でも既に行われており、受験生に余計な負担をかけてまで受けさせる必要があるのか疑問です。高校に卒業試験を導入し、必要に応じてその証明を大学に提出するのもひとつの方法かもしれません。

 教育は百年の計ですから、1年で結論を出し見切り発車すべきでありません。文部科学省の主導で、実施運営などの政策に関わる専門家集団と、国家規模のテストを開発する専門家集団を組織し、協力関係を保ちながら進める必要があります。今回はまたとない貴重な機会になるはずです。

 本気でスピーキング力を上げたいのであれば、入試よりも必要なリソースを割いた授業改革のほうが先に着手すべき課題だと私は思っています。加えて、今回の高大接続の教育改革では、大学に進学しない生徒たちのことが全く考慮されておらず、私には大いに不満です。

 検討会議は、昨年までの議論や経緯を見直し、いったん白紙に戻す前提で始まっています。将来を見据えた新たな出発点にすべきだと考えています。

(アエラ編集部・石田かおる)

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●渡部良典(わたなべ・よしのり)/上智大学大学院言語科学研究科教授。日本言語テスト学会会長。専門は言語教育評価