年明けに開かれた第1回目の「大学入試のあり方に関する検討会議」の冒頭で、萩生田光一文部科学相があいさつした(中央)。右は座長の三島良直・東京工業大前学長、左は文科省の藤原誠事務次官/1月15日、東京都千代田区で (C)朝日新聞社
年明けに開かれた第1回目の「大学入試のあり方に関する検討会議」の冒頭で、萩生田光一文部科学相があいさつした(中央)。右は座長の三島良直・東京工業大前学長、左は文科省の藤原誠事務次官/1月15日、東京都千代田区で (C)朝日新聞社
大学入学共通テストの検討会議に、英語専門家として入った、上智大学の渡部良典教授。日本言語テスト学会の会長を務める(本人提供)
大学入学共通テストの検討会議に、英語専門家として入った、上智大学の渡部良典教授。日本言語テスト学会の会長を務める(本人提供)

 来年1月から実施される大学入学共通テストでは、「英語民間試験」「国語・数学の記述式問題」の2本柱の導入が昨年土壇場になって見送られた。今後の新テストのあり方を議論する検討会議が今年1月から1年間の予定で始まったが、18人の委員のうち英語の専門家はただひとり。日本言語テスト学会会長を務める、上智大学の渡部良典教授(外国語教育)だ。第4回の検討会議が19日に開かれるのを前に、専門家として共通テストの英語についてどう考えているかを聞いた。

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「大学入試のあり方に関する検討会議」では、最初に二つのことを伝えました。第一に、入試に英語の4技能試験を導入することと民間試験を活用することはイコールではないこと。第二に、テストには大きく分けて2種類あることです。将来の課題に対処する能力を測る「熟達度テスト」と、学んだことがどれだけ身についているかを測る「到達度テスト」です。前者が将来を見据えたテストなのに対し、後者は過去を見るテストです。例えば民間試験のうち、TOEFL iBTやIELTSなど留学のためのテストは熟達度テストで、英検やGTECなどは到達度テストです。同じ民間試験でも意味が全く違うのに、大学入学共通テストではこれらが区別されることなく一緒に導入されようとしていました。専門の立場から見ると、テスト研究の基本的な知識が欠如していると言わざるを得ません。

 私が会長を務める日本言語テスト学会では2017年1月、共通テストへの民間試験導入の方針が打ち出されて間もない時期に提言書を日本語と英語で公にしました。当時の文部科学大臣にも提出しました。地域・経済格差など想定される課題の提示に加え、学会として専門的な見地から協力する旨も伝えました。ところが、文部科学省からはなんの反応もなく、実施に向けどんどん進み、結局、昨年11月の見送りの騒ぎです。

 提言には「テストを変えるだけでは教育は変わらない」ことも伝えていました。ところが今回の入試改革では、「入試を変えることで、教育を変える」という考えが強固に貫かれました。1990年代から日本を含めた世界各国で、大規模なテストの波及効果に関する研究が行われてきました。しかし、そのどれもがテストを変えることによって得られる教育効果は極めて限定的であることを示しています。高校でクリエイティブ・ライティングの指導を促進するため入試に導入したところ、実際には生徒は受験対策としてパターンを暗記して準備するようになったという報告もあります。

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「話せるだけの英語力」などない