「新型コロナウイルスに効くことが示されれば、治療薬の候補になると思います。ただ、試験管内や動物実験での結果とヒトの体内での効果は一致しないことがあるので、臨床試験で判断しなければなりません。副作用もきちんと評価しながら、慎重に進めることが必要です」

 国内でも動きが出始めた。

 武田薬品工業は今月4日、治療薬の開発を始めたことを公表した。感染後に回復した患者から採取した抗体を収集・濃縮して得られる「高免疫グロブリン」を使い、治療の効果を試す研究を進める。「9~18カ月程度で開発したい」(広報担当者)としており、年内の上市も視野に入るスケジュール感だ。

 日本の政府や、大学や研究機関への支援を行う日本医療研究開発機構なども、抗ウイルス薬やワクチンなどの開発に取り組む予算をすでに措置した。

 ただ、上理事長は政府の在り方にこう疑問を呈す。

「官に求められているのは、どこで薬が開発されても国内で保険を使って使える仕組みを作ることだ。開発ではメガファーマにかなわない」

 治療薬と同様に国内外の企業が研究に着手しているワクチンは、開発により時間がかかると考えられる。

「健康な人を対象に接種するので、安全性や効果についてはさらに条件が厳しくなります。開発には薬と同等かそれ以上の期間を要します」(増田教授)

 HIVやC型肝炎ウイルスは、発見から数十年が経つ。治療薬は実用化されたが、ワクチンの開発には至っていない。

 ただし、パンデミックが起こり、治療薬やワクチンがないといって、パニックを起こす必要はない。「残念ながら亡くなった人もいるが、発症率や重症化率から、新型コロナウイルスそのものが他のウイルスに比べてそれほど怖い顔つきをしているようには見えない」(増田教授)からだ。

「国内で新型コロナウイルスに感染した大多数は、特に治療薬がなくても治癒しているようです。特効薬がないというだけで、過大なリスクを想定するのは避けるべきかと思います」(同)

 大切なことは、神経質になりすぎてウイルスが及ぼす以上の被害を招かないことだ。(編集部・小田健司、大平誠)

AERA 2020年3月23日号より抜粋