早大副総長の須賀晃一教授によれば、この入試改革は政治経済学部のカリキュラム改革の一環だという。政治学と経済学が共通で使う道具、すなわち統計学を必修化し、計量分析・ゲーム理論・数学を選択必修化するなど、数学的な思考を重視してきた。

「数学ができないために、自分がやりたかったテーマで研究ができない学生がいる。数学のロジックを学ぶのは大変です。入学してからやればいい、ではなく、少なくとも必須部分は習得した上で入学してもらいたい」

 須賀副総長は、高校における受験テクニックに偏った学習にも違和感を抱いている。

「受験の時に文理を分け、さらに国立私立を分ける。そうやって狭めるたびに、教養の基礎になる部分がどんどん抜け落ちていく。数学だけではなく、音楽、美術、家庭を含んだ高校教育の基礎を身につけることは、グローバルリーダーには欠かせません」(須賀副総長)

 受験生にはどう影響するのか。大学通信の安田賢治常務は来年、早大政経は志願者数を半数近く減らす可能性があると指摘する。

「同学部の受験生は地歴選択が約6割、数学選択は約4割です。数学を『捨てて』私大文系に絞っている受験生がいなくなり、国立大の併願校とする受験生が主になるかもしれない。たとえそうなっても、数学のできる学生が欲しいということでしょう」

 一方、駿台教育研究所進学情報事業部の石原賢一部長は受験生に大きな影響は出ないとみる。

「今は私立文系でもセンター利用入試を使う生徒も多く、点数が取りやすい数IAはほとんどの生徒が選択している。早稲田を狙うような生徒なら大丈夫でしょう」

 もう一つ、入試と数学の関連で注目されたのが、今年実施された入試で東北大学の経済学部が「理系入試」を導入したことだ。

 AOIII期・一般入試前期・後期で各10人、計30人の募集。文系入試230人と比べれば少ない枠だが、注目を集めた。入試開発室の倉元直樹教授も、手ごたえを感じているという。

「経済学という学問の中身はこの30年ほどで大きく変化しました。金融工学のように高度な数学を駆使する分野が拡大し、理系で学んだ学生が強みを生かせる部分が広がっています」

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