同プロジェクトは、「もし今、手塚治虫が生きていたら、どんな未来を描くのか?」という問いに答えるべく、昨年10月に発足した。手塚が描いた長編65作品、短編131作品のセリフやキャラクターをAIに学習させるなどして、プロットやキャラクターの原案を生成。それを脚本家や漫画家が肉付けすることで、一本の作品に仕上げた。

 AIの技術面でサポートを行った慶応大の栗原聡教授は、「人間とAIが連携してクリエイティブな活動を行う、その成功例になれれば」と語る。

 ひみつ道具の「エアコンスーツ」のように、着ながら体温を調節してくれる服もある。

「空調服」は服に付いた小型ファンを回転させ、服の中に大量の風を流すことにより、汗を気化させて体を冷却することができる作業着だ。同名の会社空調服の岩渕大征さんはこう語る。

「当初は奇異な目で見られたが、建築現場を中心に効果が口コミで広がり、今では夏の制服として採用しているゼネコンもある。夏場の作業効率アップや、熱中症の予防に効果があるだけでなく、エアコンに比べ使用するエネルギーが格段に少ないため、地球温暖化に歯止めをかけることにもつながると思います」

 人だけではなく、環境にやさしいプロダクトも誕生した。ひみつ道具の「ウォータークリーンシップ」のように、海に漂うごみを自動できれいにしてくれるのが「SEABIN」だ。

 水中ポンプにより小さな海流を発生させ、ペットボトルやポリ袋などの浮遊ごみを自動で収集。さらに、海水の表層油や汚染物質などをろ過し、浄化する機能も備えている。

 まさに環境問題を解決してくれる理想的なソリューションのように見える。だが、SEABINを使った漁港の清掃事業等を行うSUSTAINABLE JAPAN代表の東濱孝明さんの見解は冷静だ。

「汚染がひどい港では、毎日10キロほどのごみが取れるが、それでも全てのごみを回収するめどは立たない。海は循環しているので、1カ所だけでなく、全国的に同時に清掃活動に取り組まないと効果が薄い」

 現在39の国と地域で860台が稼働しているが、SEABINをより普及させるため、クラウドファンディングで資金を集めているところだ。

 残念ながら、ドラえもんはまだこの世界にはいない。しかしその後ろ姿は、もう見え始めている。(ライター・澤田憲)

AERA 2020年3月16日号より抜粋