「ネットフリックスは当初、海外ドラマで会員を獲得していましたが、その後、グローバルでも人気があるアニメに注目。また、日本で強いテレビコンテンツでありながらグローバルでも通用するものとして、フジテレビの『テラスハウス』を選びました。リアリティー番組は海外でも人気だからです」

 海外ドラマ、アニメ、リアリティー番組。この三つのジャンルの客層を積み上げたところに、さらに新しいコンテンツとして打ち出したのが「嵐」だ。

「日本のローカルコンテンツでグローバルでも通用するカテゴリーは限られますので、今後は音楽アーティストやアスリートなど“人”に焦点を当てたコンテンツで、それぞれのファン層を獲得していくのではないでしょうか」(四方田さん)

 近年、ヒットしたコンテンツは、それぞれがアニメやゲーム、舞台など多角的なフィールドに展開している。かつてメディアミックスと呼ばれた立体的な戦略は、今ではヒットの定石。源流ともいうべき出発点となったフィールドでは大きな話題にならなくても、ほかの分野に展開することでヒットにつながるケースもある。

 それらのなかでも、漫画で大ヒットした「鬼滅の刃」や「ONE PIECE」、「進撃の巨人」などはネットフリックスでも配信。影響力の強さを感じさせる。

■「テラハ」「こんまり」逆に新鮮

 90年代後半、アメリカでオンラインDVDレンタル事業を立ち上げたネットフリックスは、いまや世界約190カ国で動画配信サービスを提供するエンタメ界の巨人に。そのコンテンツ戦略における日本の位置づけとはどのようなものなのか。前出の坂本さんが言う。

「日本発のコンテンツとして、世界がスシ、サムライといったステレオタイプを求めているわけではありません。『パラサイト』もそうですが、ドメスティックなストーリーであっても、そこに普遍性があれば全世界で観られる。日本ならではの視点が逆に新鮮にうつります」

 いい例が「テラスハウス」のヒットだ。欧米の恋愛リアリティーショーでは、ともすると1話目から肉食的な男女の関係が繰り広げられるが、「テラハ」ではなかなか物語が動かない。

「しかしこれこそが日本のコミュニケーション文化や空気を切り取ったもので、逆に海外の方には新鮮に見えるわけです」(坂本さん)

「KonMari~人生がときめく片づけの魔法~」も米国でヒット。片づけコンサルタントの近藤麻理恵さんが全米各地のクライアントの家を訪問し、“ときめき”(SPARK‐JOY)を駆使した独自のメソッドで片づけを手伝う。日本では「ビフォーアフター」は定番企画だが、大量生産・大量消費のアメリカ社会に小柄な日本女性が現れ、ちょっとスピリチュアルなアプローチでコミュニケーションしていくこの番組は、アメリカの観客には新鮮に受け止められた。(編集部・小柳暁子、福井しほ)

AERA 2020年3月16日号より抜粋

※AERA 2020年3月16日号では、「ヒットの方程式」を全10ページで特集。動画配信の巨人「Netflix」のクリエイティブを統括するディレクターら“中の人”も徹底取材しました。

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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