「ノー・イングリッシュ」

 とっさに、ガーザが拙いスペイン語で話し始め、用意していたスペイン語のサンダースのパンフレットを渡すことができた。

 この日、40軒あまり戸別訪問し、在宅していたのはわずか5軒だった。

 一方、ジョー・バイデン前副大統領(77)の陣営からは、毎日のようにメールが届く。

「ケイコ、頼むから5ドル寄付して」

 バイデン陣営は選挙資金集めの苦戦が報じられていた。今年1月に調達した選挙資金は890万ドルと、サンダースの2500万ドルの3分の1程度だ(連邦選挙管理委員会による)。筆者が調べた限り、テキサス州オースティンには選挙事務所さえなかった。米メディアによると、バイデンは全米で9カ所しか事務所を構えていない。激戦州は10以上あるにもかかわらずだ。

 こうして迎えたスーパーチューズデーは、「バイデンの大逆転」という驚きの結果に終わった。米メディアは「トップを走るサンダースに、どれほどバイデンが肉薄するか」と事前に報じていたが、事前の支持率調査でサンダースの勝利が予測されたテキサス州でさえも、バイデンが勝利した。

 勝利の背景には、「棚ぼた」的な要因もある。中道派の票を争っていた有力候補が、次々と撤退を表明したのだ。

 予備選挙の初期に健闘したピート・ブティジェッジ前インディアナ州サウスベンド市長(38)は、スーパーチューズデーの2日前の1日に選挙戦から撤退した。同時にバイデン支持を表明したことから、彼らの票がバイデンに流れた。

 さらに、スーパーチューズデーから参戦したマイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長(78)も、4日には撤退を表明、バイデン支持を表明した。米メディアによると、ブルームバーグは5億6千万ドル(約600億円)という巨額の資金を投じ、テレビやネット広告を中心とする選挙運動を展開してきた。だが、代議員を獲得できない州も多かった。これで、中道派の民主党指名候補は、バイデンに絞られた。

 一方、急進派においても5日、エリザベス・ウォーレン上院議員(70)が撤退を表明。急進派の候補はサンダースのみとなった。混迷していた指名候補争いは、一気にバイデンとサンダースの「ベテラン・シニア争い」に絞り込まれた。3月5日現在、代議員獲得数はバイデンが610人、サンダースが541人だ(米紙ニューヨーク・タイムズ調べ)。(文中敬称略)(ジャーナリスト・津山恵子=テキサス州オースティン)

AERA 2020年3月16日号より抜粋