稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
地道な体調管理も忘れずに。乾燥生姜を常備し味噌汁に投入しています(写真:本人提供)
地道な体調管理も忘れずに。乾燥生姜を常備し味噌汁に投入しています(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんが常備している乾燥生姜

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 今週もフィンランド話を書こうと思っていたが、新型コロナウイルスが病気以外にも何かイガイガしたものを振りまき止まるところを知らぬ勢いなので、そのことについて書いてみたい。

 騒ぎが広がった時に日本を離れていたこともあり、結局のところ問題の本質は何なのかが今ひとつ理解できぬまま今に至る。周囲に尋ねても、騒ぎすぎと憤る人もいれば対応がぬるすぎると怒る人もいる。マスクは予防効果なしという人もいればマスクなしの外出を問題視する人もいる。個人的に最も疑問なのは、軽症者が多いから蔓延の危険が高く、既に知らぬ間に罹患している人も多いはずという専門家がいる一方、この原稿を書いている時点で未だニュースではどこかで一人感染者が見つかったことをまるで魔女が発見されたかのごとくトップで報じていること。現状認識を歪んだ方向に誘導する結果を生んでやしないだろうか?

 もう一つ解せないのは、イベント自粛の先陣を切ったのが各地のマラソン大会だったことだ。幾多のイベントの中でなぜそこ? 屋外開催で参加者は健康人。リスクは比較的低い方なんじゃ……と思ってネットで検索していたら、あるブログに行き当たった。

 あるランナーが、マラソン大会中止についてランナーらの意見を募り、賛成と反対の理由コメントをそのまま紹介していた。「自分とは違う考えの回答を読むと色々見えてくるかもしれません」とあった。確かにそうだった。私自身は横並びの中止ドミノは合理性に欠けたと思うが、中止やむなしという人の意見を読むと、なるほどと深く頷くところも多かった。誰もが悩みながら真剣に考えていた。いつの間にかそんな当たり前のことを忘れていたのだ。イガイガがスッと溶けていった。

 敵が目に見えないと疑心暗鬼が膨らむ。何が正解かわからないと大きな声を出して相手を黙らせたくなる。そんな中、このアンケートを読めたことはとても良かった。誠実な個人の発信はすごい。マスコミも頑張ってほしい。

AERA 2020年3月9日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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