だが、訴訟では、JASRAC側が主導権を握った。過去の勝訴してきた裁判で積み上げた法理論を根拠に、教室側の主張を一つひとつ、粉砕していった。「筋の通った法的理屈がなく、破綻したもの」「残念ながらこの主張もまた誤りである」──。教室側を批判する準備書面の文章には、赤子の手をひねるような余裕すらにじんだ。

 その法理論とは通称「カラオケ法理」。カラオケスナック、カラオケボックスなどとの訴訟で、JASRACが勝訴し、確立したものだ。客の歌唱(演奏)によって利益を得ている事業者が、楽曲を演奏しているとみなせるという理論だ。

 さらにダンス教室を相手取った訴訟でも「ダンス教室の生徒は『公衆』とみなせる」との判断を勝ち取った。契約を結べば、誰でも生徒として受講ができ、営業を続ける中で生徒は入れ替わっていくため「不特定多数の公衆といえる」というわけだ。

 今回の訴訟でも、音楽教室側は「生徒は特定少数だ」と主張したが、裁判所はJASRACの主張に沿って「不特定多数」の公衆にあたると判断した。

 また、音楽教室側は「技法を伝え、生徒の到達度をチェックするための演奏であり、聞かせることが目的とはいえない」とも主張したが、これも裁判所は認めなかった。たとえ2小節であっても、曲全体の本質的な特徴を表現しようとして演奏していると裁判所は判断した。

 JASRACは、小さなカラオケスナックからフェイスブックなど巨大IT企業まで、楽曲が商業的に使われる場面を着実に捕捉することで、CD不況を尻目に徴収額を伸ばし、今年度の徴収額は過去最高の1157億円となる見込み。JASRACは支払いに同意した音楽教室を営む10事業者から徴収しており、全国の約7千施設からの徴収が実現すれば、年間で3億5千万円から10億円と試算する。

 だが、音楽教室側はあきらめていない。3月5日に会見を開き、判決への反論や控訴の方針を発表する予定だ。専門家からも異論は出る。「条文の語感と法解釈がずれていくのは問題が大きい」と福井健策弁護士。教室側は57万人の反対署名も集めている。闘いはしばらく続きそうだ。(朝日新聞社会部・赤田康和)

AERA 2020年3月9日号