中国疾病対策センターのチームなどは、湖北省以外で広がっている感染のうちかなりの部分は、手を伸ばせば届くような近距離で接しやすい家族内などの小集団(クラスター)として存在していることを明らかにしている。

 市中で完全に蔓延(まんえん)しているのではなく、誰が誰にうつしたのか、感染の「つながり」がまだ見えている状態で、クラスターを一つずつつぶして次への連鎖を断てば、大規模な拡大は防げるはず──。中国では、1月後半から2月はじめをピークに、新たに発熱や肺炎などを発症するケースが減少している。まだ楽観には早いが、クラスターへの対策が効いている可能性がある。日本の対策もまさに、クラスターを標的に見据える。

 中国の国家衛生健康委員会は、空気を漂う飛沫(ひまつ)核を通じてウイルスが伝わる「エーロゾル感染」の可能性も認めている。だが、大部分はせきやくしゃみに伴うしぶきを通した「飛沫感染」と、ウイルスのついた手すりやドアノブなどに触れたりして起こる「接触感染」とみられる。たくさんの人が近距離で接する場面は、飛沫感染や接触感染の機会を増やす。「密接な接触」をなるべく減らすことが、対策の大きな要素を占めそうだ。

 政府の専門家会議は、「37.5度以上の発熱が4日以上」などの目安を示し、これに至らない場合は自宅での療養を呼びかけている。いま、せきや発熱の症状が起きても新型コロナウイルスの可能性は高くなく、不用意に病院を訪れることのほうが感染リスクは高いともいわれる。

 ただ、本当は感染しているのに、自宅で我慢し続けているうちに重篤に陥ってしまうような事態は何としても避けたい。

 大阪大の朝野(ともの)和典教授(感染制御学)は、水分がとれない、成人で呼吸数が1分間に22回以上と多い、意識がぼーっとして周囲の呼びかけに答えないといった症状が一つでも見られた場合は、躊躇(ちゅうちょ)せずに受診すべきだと勧める。重い肺炎や、感染症が重篤化して起こる敗血症の兆候かもしれないからだ。(朝日新聞編集委員・田村建二)

AERA 2020年3月9日号