医師を目指す医学部でも変革が起きている。急増するインバウンドニーズで医療現場の国際化が進み、「2023年問題」に対応すべくカリキュラムを変更する医学部も増えた。 AERA2020年3月2日号から。
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2018年3月、秋田大学医学部5年生の宮地貴士さん(23)はアフリカのザンビア共和国、マケニ村で途方に暮れていた。
診療所を建てるための土地を取得し、保健局から建築許可を得ているはずの現地のパートナーが失踪。事業は手付かずのまま、放置されていたのだ。
マケニ村は無医村だ。宮地さんは2年生だった16年に国際医学生連盟日本(IFMSA‐Japan)に参加して同村を訪れたことをきっかけに、診療所を建てるプロジェクトを開始した。ザンビア風お好み焼きの販売やクラウドファンディングなどで資金を集め、約3年をかけて目標額の700万円を調達、意気揚々と訪れたところだった。
「村人からは『何をやっているんだ』と罵倒され、悔しくて涙が止まらなかった。事業を現地任せにせず、自分で一からやるしかないと腹をくくりました」
公共の交通手段がなく、診療所のある隣町までは歩いて3時間。ザンビアの平均年収は15万円で、タクシー代は払えない。村人たちは医師にかかることをあきらめるしかないのが現実だ。
19年春、診療所建設に本腰を入れるため、宮地さんは大学を休学してアフリカへ飛んだ。住民や長老を訪問して診療所建設への理解を求め、保健局と交渉して看護師の常駐も決めた。
現地での人材育成も着実に進んでいる。今年、マケニ村から医師が誕生するよう、宮地さんは医学生向けの奨学金も設立した。昨年、マケニ村出身のボーティンさん(23)がザンビアの私立大の医学部に合格した。
「日本で医師免許を取ったら、またマケニ村に戻りたい。医師になったボーティンと一緒に、医療を提供するのが夢です」
宮地さんは今年3月、1年にわたるザンビア滞在に終止符を打ち、帰国して秋田大学医学部の5年生に復学する。