けれども、医師は良い意味での「エリート」であり続けなければいけないと私は考えています。社会に貢献していく意識を持ち、「ノブレス・オブリージュ」(高い地位の者はそれに応じて果たすべき社会的責任と義務がある)の精神が求められると思うのです。

 医師という職業の象徴は、患者を診る臨床医でしょう。しかし、iPS細胞の山中伸弥教授のように研究を通して病気を治そうとする人も医師であり、私のように会社を起こして患者を健康にする試みも医師の仕事です。今後さらに医師の働き方の多極化が顕在化するでしょう。たとえば、ヘルステック(ヘルスケア×IT)の分野では、医師による起業が一種ブームです。優秀な臨床医が領域を越えて活躍するケースが増えています。

 社会への貢献という目線で、「エリート」の自覚を持って医師の仕事を遂行する覚悟を持つ。そのうえで行う臨床、研究、経営、政治など多分野への挑戦が、医師として得がたい経験になるはずです。目の前の困難から「逃げない覚悟」を持ち、誇りを持って仕事をしてほしいと思います。

(編集部・小長光哲郎、ライター・井上有紀子)

AERA 2020年3月2日号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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