14日には河野太郎防衛相が記者会見で「病院船についてしっかり検討して参りたい。予算、人員などの議論はあると思うがインド太平洋構想の中で太平洋の島嶼国にも関連し、もちろん日本の離島の災害の対処にも役立つ。必要があればやることになる」(要旨)と述べ、海上自衛隊が保有する可能性については「あるだろうと思います」と答えた。

 海軍に関する1949年の「ジュネーブ第2条約」は病院船に関しては「傷者、病者、難船者に援助を与え、治療し、それらの者を輸送することを唯一の目的として国が特別に建造又は設備した船舶はいかなる場合にも攻撃又は捕獲してはならない」と保護を定めている。

 一方、病院船の船名、細目を使用の10日前に紛争当事国に通告すること、傷病者等には国籍を問わず救済、援助を与えること、いかなる軍事目的にも使用しないこと、暗号は使用しないことなどを求め、乗組員の自衛のための武装は許容している。病院船の外面はすべて白色とし、船体の側面や甲板にはできる限り大きい赤十字を表示することも定めている。

 米海軍はタンカーを改装した約7万トンの病院船「マーシー」と「コンフォート」の2隻を保有している。同型でともに1千床を備える。うち80床は集中治療室で、12の手術室がある。12人乗りの中型ヘリMH60を2機搭載、大型のはしけ船2隻も積み、漂流物が多いなど、港に入れない場合、ヘリとはしけ船で被災者や物資を運べる。

 乗組員は医療要員が最大820人など、1215人に達する。ただ、母港で待機中には民間人海員を含む58人が留守番をし、出動の際には海軍病院などから要員が派遣される。

「マーシー」はカリフォルニア州サンディエゴを母港とし、スマトラの地震・津波やフィリピンの台風などの災害救助に活躍。メリーランド州ボルティモアが母港の「コンフォート」は、ハリケーンに襲われた中南米諸国に何度も出動してきた。

 中国は2008年に約2万3千トンの病院船「岱山島(ダイシャンダオ)」を就役させた。300床、八つの手術室を持つ同船は「和平方舟」(平和の方舟)の愛称で中東、アフリカ、南太平洋、カリブ海で巡回診療を行い親善につとめた。今回の新型コロナウイルスへの対処で表舞台に登場していないのは少し変だが、たまたまドック入りして定期整備中なのかもしれない。

 ロシアは約1万2千トン、100床の「エニセイ」級病院船3隻を持っているが、財政難のため近年は港内につないだままで、医療施設として使われている様子だ。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)

AERA 2020年3月2日号より抜粋