※写真はイメージ(gettyimages)
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 少し前まで、医師たちは医局に所属することが当たり前だった。いま、医局を離れるという選択をする医師が増えている。「脱医局」を選んだ医師はどんなキャリアを描くのか。AERA2020年3月2日号から。

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「『けしからん!』と大トラブルになりました。『学ぶだけ学んで、あとはやめるのか』と」

 昨年3月、大学の放射線科医だった島村泰輝さん(32)は、新たな道を歩むため、「医局」をやめることにした。しかし、教授たちからは「これから後輩の指導をする立場なのに」と厳しく責められた。

 医学部を卒業後、医師免許を取得した医師の多くは、2年間の初期研修と3年間程度の後期研修を経て、出身大学の「医局」に所属することが多い。医局は大学院生、専門医を目指す若い医師、助教、講師、准教授、トップに教授というピラミッド構造になっており、所属医師たちは大学病院や系列の病院などで働く。医局と医局員に雇用関係はないが、関連病院への派遣などの人事権や研究費の配分は、教授が握っている。

 医師の多くはこれまでそんな閉鎖的な空間にいた。熾烈な受験戦争を勝ち抜き、世間では「先生」と呼ばれ、学びの場も職場も大学内で完結するいわば純粋培養の「エリート」だった。

 だが、いま、このシステムから離れ、「脱医局」を選択する医師が増えている。医師の世界にも変革の時が訪れているのだ。

 その背景を医師で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんはこう分析する。

「『医局』は医師に仕事を紹介する『マネジメント会社』の役割を果たしています。ただし、マネジメントしてもらえる専門分野と地域は限定される。『医局を抜ける』ことにより、国内外を問わず、専門を問わず、新しいチャレンジが可能になります」

 島村さんの場合、新しいチャレンジは、「遠隔画像診断」を提供する会社エムネスで放射線診断の専門医として働くことだった。病院で撮ったCTやMRIに、依頼を受けて遠隔画像診断を行う同社は、常勤の放射線診断専門医が12人在籍している。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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