マスクがないときどうするか、子どもたちにも咳エチケットを教えたい(写真/gettyimages)
マスクがないときどうするか、子どもたちにも咳エチケットを教えたい(写真/gettyimages)

 新型コロナウイルス感染症の影響で、マスク不足が起きています。私の住むアメリカでも、実店舗やオンラインショップの在庫がどんどんなくなっています。アメリカではマスクは予防のためではなく自分のウイルスを広げないためにつけると考えられているので(マスク姿の人は今のところ見かけたことがありません)日本とは少し事情が違いますが、ともかく日本だけではなくアメリカでもマスク不足が深刻な問題になりつつあります。

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 もしマスクをつけていないときに咳やくしゃみをしたくなったら、皆さんはどうしますか。「手のひらで押さえちゃいけないんでしょ」というかたは、これ以降の文章は読んでいただかなくても大丈夫です。というか、すでにその知識があるかたは本記事のクリックすらしていないかもしれませんね。この文章は、そうではない方々、「え? 手のひらじゃなかったらどこで押さえるの?」と思っている方々のために書いております。

 アメリカに来る前は、私もずっと“咳・くしゃみは手のひらでカバーする”と思っていました。2020年現在、日本の子ども向けテレビ番組や絵本を見ていても、“手のひらカバー”を勧める場面を目にします。でもこのやりかたでは、かえってウイルスを広げてしまいます。咳・くしゃみを押さえた手で、いろいろな人や場所に触ってしまうからです。

 アメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が咳・くしゃみのやり方として推奨しているのは、「ティッシュで口を押さえ、そのティッシュをゴミ箱に捨てる」方法です。さらに「ティッシュが手元にない場合は、上腕で押さえること」としています。この「咳・くしゃみエチケット」を、アメリカでは保育園・幼稚園や小児科で徹底して教えています。実際、日本生まれの日本育ち、三十年余り“手のひらカバー”を実践してきた私は、自分の娘がそうしている様子を見て初めてこのエチケットを知りました。

 ただ、アメリカで「咳・くしゃみエチケット」が浸透してきたのもごく最近のことです。提唱されだしたのは、SARS(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス)流行のとき。2002年末に中国南部で患者が報告されたのを発端にアジアとカナダでSARS感染が深刻化し、カナダで「咳・くしゃみは手のひらではなく上腕に向けてしましょう」といわれだしたのだそうです。アメリカの中学校で校医をしている知人に聞くと、「少なくとも学校では、2010年頃にはそう指導していた」とのこと。でも人口に膾炙(かいしゃ)したとはいいがたく、2018年のニューヨークタイムズには、まだ「なんと! 咳・くしゃみは手のひらにしてはいけないんですって」という調子の記事が掲載されています。

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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