ハイパフォーマンススポーツセンターは国立スポーツ科学センターや味の素ナショナルトレーニングセンターなどが一体となった組織だ。東京都北区西が丘(撮影/写真部・掛祥葉子)
ハイパフォーマンススポーツセンターは国立スポーツ科学センターや味の素ナショナルトレーニングセンターなどが一体となった組織だ。東京都北区西が丘(撮影/写真部・掛祥葉子)

 東京五輪を間近に控え、選手育成にも関わる組織の悪質な労務管理の実態が、アエラの取材で明らかになった。職員への残業代の未払い、勤務時間の改ざん──。職員を欺いた組織の「手段」とは。AERA2020年3月2日号から。

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「オリンピック・パラリンピックを目指すアスリートを支え、最高のパフォーマンスを出せるようサポートするのが私たちの仕事です」

 独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)の中核組織「ハイパフォーマンススポーツセンター」の職員のひとりが、そう話す。この組織は、スポーツ医・科学の研究や情報サポート、高度な科学的トレーニング環境を提供する国内最先端のスポーツ施設群。いわば、スポーツ界の叡智の結集地だ。

■残業一律15時間で記録

 そんなメダリスト育成に関わる組織で、ずさんな労務管理と残業書類の捏造が行われていたことがアエラの取材でわかった。ある職員が絞り出すように言う。

「東京五輪が近づき業務量が増えていて、60時間程度残業する月もあります。オリンピックに関われる仕事でやりがいは大きいですが、規定通りの給与を払ってほしいと思っています」

 彼らの給与規定には、「正規の勤務時間外に勤務することを命ぜられた場合には、その勤務した全時間に対して、(中略)超過勤務手当として支給する」とある。しかし、「みなし残業制」との説明のもと、どれだけ残業しても月15時間分の超過勤務手当しか支給されていないという。さらに、職務規定との整合性を取るためか、「超過勤務報告書」や「超過勤務命令簿」などの書類は管理者側が毎月、15時間分で作成していた。

「そもそもタイムカードなどはなく、自己申告すら求められません。つまり、労働時間はまったく管理されていないんです。それでも毎月、適当に作られた超勤書類に捺印させられます」

 この職員によると、月初に前月分の「超過勤務命令簿」が人事担当者から渡される。そこには合計15時間になるよう日々の「残業」が記録されていて、全日分に捺印を求められる。実際の残業時間とは全く一致しないが「ルールだ」と説明され、やむなく従っているという。

 一方、こう話す職員もいる。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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