稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
このような暗い森の向こうにホットなサウナと冷たい海が待っていたのであった!(写真:本人提供)
このような暗い森の向こうにホットなサウナと冷たい海が待っていたのであった!(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】暗い森の向こうにホットなサウナと冷たい海が待っていた

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 フィンランドではここ数年の旅と同様、東京にいる時と同様に過ごしている。「暮らすように旅する」ってやつだ。おしゃれ! などと言っていただくこともあるが、移動もせず観光もせず買い物もせず外食もせず面白がるのは案外テクニックを要するのだよ。日頃の暮らしを意味なくキャッキャと喜ぶおっちょこちょいだからこそ旅先での暮らしも無意味に喜べるのだ。私流のポイントは、日頃の暮らしをそのままなぞること。さすれば最悪でもキャッキャと喜んでいる日頃の7割程度は楽しめるという算段である。

 というわけで、カフェで仕事して自炊して八百屋行って銭湯へ……そう銭湯! フィンランドには公衆サウナというものがある。ここまで「我が日頃」を再現できる国はそうそうない。完璧だ。と思ってやってきたら一番近いところで徒歩30分なのであった。しかも週1オープン。東京がいかに偉大な銭湯都市であるかを思い知る。

 仕方がないのでバスで15分ほどの海辺のサウナに遠征を試みる。サウナの後は極寒の海に飛び込むという、日本のテレビでも紹介されているらしいアレだ。風呂に娯楽性などなくてよしという硬派な私ではあるが他に選択肢もなく、仕方なく出かけたら、まーこれが最高だった。

 いやね、海がどうとかはどうでもいい(冷たくて死ぬかと思った)。それよりそこに集う人々である。オープン前から待合所はホクホク顔のおっちゃんおばちゃんでぎっしり。開店後はドドドと更衣室になだれ込み、サッと水着に着替え掘っ立て小屋のようなサウナ小屋へ入るとさらにホクホク顔で汗まみれ。で、いつものシャイで礼儀正しいフィン人とは思えぬ勢いで喋りまくっている。男も女も大阪のオバちゃんだ。言葉は全くわからぬがこちらもホクホクせずにはいられない。

 思い出したのは大阪から東京へ引っ越した時、上品でとっつきにくかった東京の人が、銭湯では全員大阪のオバちゃん化していたこと。銭湯文化は世界共通と知る。そして何か偉大なものである。

AERA 2020年2月24日号

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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