劉慈欣(リウツーシン)さんによるSF小説『三体(さんたい)』が世界的に大ヒットしている。FacebookのCEOザッカーバーグやオバマ前大統領が愛読していることでも知られ、ビジネスパーソンの関心も高まった。著者の劉さんとは一体、どんな人物なのか?
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『三体』邦訳の監修者・立原透耶(たちはらとうや)さんは自身も作家で、中国文学の研究者でもある。劉さんとの交流もある立原さんは、「劉さんは中国で『子どもの読み物』とされてきたSF小説に新たな地位を確立した」と語る。
「ヒューゴー賞という世界的な賞を受賞したことで、政府は『SF作品を通じて中国文化を世界に広めることができる』と判断し、後押しを決めました。その後もSF作品による世界進出を進め、国威高揚などに活用しています。日本と大きく異なるのは、文学の動向に政策が関与する点ですね」(立原さん)
前出の成都は四川省の省都で、SF雑誌「科幻世界」の編集部も置かれている。「SF都市宣言」のもと、今後はSFの聖地として都市を挙げて盛り上げていくという。
劉さんはこれまで純文学作家が中枢にいた国家組織の役職をはじめ、各地の作家協会やIDG資本という投資ファンドの要職にまで就いている。
「今や劉さんは中国国内の多岐にわたる分野で高い評価を受け、影響力のある人物となりましたが、お目にかかると知り合った頃と変わらない、温かい方です」(立原さん)
劉さんのヒューゴー賞受賞以降、たびたび中国のSF大会に招待され、作家たちと親交を深めている日本SF作家クラブの理事・藤井太洋さんは中国SFの魅力をこう語る。
「文化大革命の最中に生まれて西洋の文物を一気に吸収した劉慈欣のような世代から、グーグルに就職してグローバリズムの与える恩恵を肌身で感じている陳楸帆(チェンチウ ファン)、さらに世界第2位の経済大国となってから青春を送った汪カン(カンは人偏に兄)瑜(ワンカンユウ)ら若い世代までが、現役の作家として同じフィールドで作品を発表している。作家同士の交流も盛んなのが羨ましい」(藤井さん)