モスフードサービス人材開発部で働き方改革推進Pチーフリーダーを務める梶田マリさんは、「ESは、実際の文章力より高い表現力で書かれているのでは、と見ています」と語る。

 ESは採否の決定打にはならないが、前出の高橋さんも、見るべきポイントがあるという。

「見たいのは学生の『素』です。それなのに学生たちが書こうとするのは海外旅行や留学、サークル活動での活躍や全国大会出場といった高尚な体験ばかり。それよりも、約20年間の自分の人生の棚卸しをして、素の自分をPRしてほしい」

「ESに何を書いていいかわからない」と大学のキャリアセンターに駆け込んでくる学生に、担当者が「今から海外へ行って何か体験してこい」と叱咤(しった)するケースは今もある。従来、言われてきた留学などの海外体験やボランティア、ゼミ、サークル、アルバイトを通した成長や成功した体験を書くことがESだ、と思い込んでいる学生は相変わらず多い。

 だが、採用担当者は「むしろ自分自身や日常の細部を見つめる視点を持つ学生を評価する」という。たとえばアルバイト体験でも、失敗をどうリカバリーしたか、あるいはできなかったかを正直に書けばいい。前出の梶田さんはこう語る。

「面接では、学生たちにESに書かなかったことは何?と質問し、そこを深掘りすることもあります」

 ノウハウ本をコピペしたような学生は、この質問に答えられない。類型化しているESの向こう側にある学生の素の姿を探るために、企業も審査の仕方に工夫を凝らす。

「弊社では、最終面接の時に店舗見学の感想文を手書きで書いてきてもらっています」と語るのは、アパレル企業で採用を担当する飯野誠さんだ。

「この作文を見るとサービス業への情熱や本気度、ブランドへの愛情が一目でわかります」

 本気度が高い学生に内定を出すことで、内定辞退を防げるという読みもある。しかもこの作文は入社後も保管。昇進試験のときなどにフィードバックし、本人のやる気を上げるためにも使うという。ESや作文を、内定辞退や早期離職を防ぐためにも活用しているケースだ。(ノンフィクション作家・神山典士)

AERA 2020年2月24日号より抜粋