「田舎に帰れば妹もいる。母がいた家で懐かしい風景を見ながら暮らすのもいいかなって。飛行機に乗れば関東だってあっという間だから。人生も家族もそれぞれでいいと思う」

 女性はそう微笑む。

 フリーランスでライティングや広報、マーケティングを行う角舞子さん(45)は2年前、現在66歳の母親が暮らす福井県の実家に住まいを移した。人口496人の小さな集落だ。

 仕事の依頼が東京をはじめ全国各地からあるため、2週間おきに移動し、現地に滞在しながら仕事をこなす。

「東京のワンルームマンションなら、維持するのに月十数万円必要です。実家に拠点を置き、その費用から解放された今の暮らしはずっと豊か。仕事をする場所イコール住む場所でなくてもいいと思います」

 大学進学と共に上京し、25年間都会で暮らした。その間、大手化粧品会社での勤務や結婚も経験した。しかし13年前、父親が56歳の若さで病死した。

「若くても人は死んでしまう。大きな会社に勤め、毎日同じ場所で同じ景色を見ながら生活することが自分の幸せなのか」

 そんな思いが膨らんだ。パートナーとの離婚もあり、移り住んだ鎌倉で小さなベンチャー企業に転職。町おこしや空き家再生についての記事を書いたり、元職の経験を生かしてマーケティングを手がけたりする今のスタイルを身につけた。

 当面は、年老いていく母の面倒を見る必要もあり、福井に拠点を置こうと思っている。ただ、ずっとここにいると決めているわけではない。全国各地を仕事で訪れる中で「いいな」と思う土地がたくさんあり、これから先、そこに住むかもしれない、とも思う。角さんは言う。

「先祖代々の土地や家を大事にすることと、そこで死ぬことはイコールではないと思います。不動産があるからといって、そこに身をおかねばならないということでもない」

(ライター・吉松こころ)

AERA 2020年2月24日号より抜粋