空き家は30年間で2.1倍に(AERA 2020年2月24日号より)
空き家は30年間で2.1倍に(AERA 2020年2月24日号より)

 賃貸に住んでいると、老後働けなくなったときが心配──。 借金をしてまで高い家を買う大きな動機だが、取り越し苦労かもしれない。日本中で家が余っている。その持ち家、いま本当に必要ですか。 AERA2020年2月24日号は、老後に備えて家を買い、その土地に住み続けるという価値観にとらわれない人たちの声を聞いた。

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「親が要介護状態になり施設に入ることになりました。実家の売却相談に乗ってほしい」

 東京都北区で不動産コンサルタント業を営む青木信男さん(62)に相談してきたのは、同区の60代男性。青木さんの元には毎日のように同様の相談がくる。

「この男性は結婚して家庭があり、自分で家も買っています。このままだと空き家になると困っている様子でした」

 親の家は築約50年。北区内にあり、約100平米と十分な広さだ。しかし住宅密集地にあり、今の広さのままでの建て替えが難しいことなどから、買い手がつくかはわからないという。東京23区内の一戸建てでさえ、もてあまされてしまうのが現実なのだ。

 賃貸だと老後が不安。だから結婚したら貯金に励み、頭金が貯まったら家を買う。夢は庭付き一戸建て──。そんな「常識」が音を立てて崩れている。総務省の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家はこの30年間で394万戸から2.1倍の849万戸に増えた。親世代が30~35年のローンを組み、ようやく手に入れた家が、大量に余り始めている。世の中全体が「家余り」状態なのだ。

 親が遺した家と自分が建てた家。二つの家を有効に使って息子の人生を後押しする。横浜市で自営業を営んでいた女性(69)は5年前、そんな決断をした。

 女性は、死別した夫と共に横浜市内に建てた8LDKの庭付き一軒家に暮らしていた。かつては6人家族が賑やかに暮らしたが、子どもたちが独立してしまうとあまりに広い。女性は結婚を控えた次男(42)にその家を譲り、故郷の鹿児島に両親が遺した家に移り住んだのだ。

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