「イエシル」のサイトでマンション名を入力すると、現在の参考相場価格、新築時の価格、想定賃料、間取り、専有面積などが表示される
「イエシル」のサイトでマンション名を入力すると、現在の参考相場価格、新築時の価格、想定賃料、間取り、専有面積などが表示される

 業者から「相場はこんなもんです」と言われたら、黙るしかない。不動産取引のそんな不透明さを、AIが過去のものにしつつある。AERA2020年2月24日号は、「不動産の新常識」を特集。IT化の最前線を取材した。

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 業界の「儲け方」に異を唱えるようなサービスもある。不動産仲介業の男性は、不動産業界の慣習をこう自省する。

「不動産業者は、自分たちと顧客が持っている情報量の差で稼いできた。業者の提示価格が適正か、お客さんが判断するのは難しいし、災害リスクも積極的には開示されない」

 結果的に客は不動産業者の「言いなり」になってしまうことが多く、それが業者に利益をもたらしてきた、というのだ。

 そんな現状を根底からひっくり返しかねないのが、マンション名を入力するだけで部屋ごとの相場価格が一瞬にしてわかるサービス「イエシル」だ。

 インターネットメディア企業のリブセンスが15年から提供している。相場価格はAIが算出。同じ物件内の過去の取引実績を参考にするほか、一度も中古市場に出回っていない物件でも、立地や同スペックの物件価格をベースにあらゆる情報を掛け合わせて相場をはじき出す。間取りや広さ、新築時の価格、災害リスクや周辺の保育園情報も確認できる。

 物件名と部屋番号さえわかれば、他人の不動産でも価値を丸裸にできてしまうことになり、当初は「なぜうちの値段が載ってるんだ」と問い合わせが来たり、不動産業者から「掲載を控えて」と要請があったりと、軋轢が大きかった。事業責任者の川名正吾さん(46)は言う。

「情報格差が大きいということは、エンドユーザーは最適な取引ができていないということ。情報格差をなくし、リスクも把握して納得のいく取引ができるようになるべきだと考え、サービスを続けてきました」

 情報格差が小さくなれば、不動産流通も増えるという。

「今の不動産取引は価格が適正かどうかすらわかりにくい。これがクリアになれば、ビクビクせず安心して取引できるようになります。そうすれば流通が活性化して、不動産業界そのものが成長できるんです。部屋ごとの具体的な相場価格を知るのはその第一歩です」(川名さん)

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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