販売日数の長短には、販売する不動産業者の戦略なども影響する。ただ、やはり大きな影響を与えるのは買い手にとっての「値ごろ感」だ。買い手が、その価格に見合う価値があると感じた物件は高くても売れ、そう感じなければ売れない傾向は強い。

 東京カンテイ市場調査部上席主任研究員の井出武さんは「これらのエリアは、現状の価格帯では早期に分譲完了できる環境にはないと言える」と指摘する。先述した、新築マンションが「売れていない」のに「価格が上昇している」という相反するデータのギャップが、この日数に表れていると言える。

 一方、港区は平均価格が1億940万円で、09~13年の平均価格に比べ30.8%も上昇している。にもかかわらず、販売にかかった日数は81日と、23区内でも比較的低い水準だ。ほかに千代田区や新宿区、文京区などが「高くてもすぐに売れる」、言い換えれば「価格に見合う価値があると感じる人が多い」エリアと言えそうだ。

 一方、販売日数がごく短かったエリアは、従来の「価格」という切り口では見えなかった人気の持ち主と言える。墨田区(22日)、荒川区(28日)、大田区(38日)、台東区(42日)などだ。これらのエリアは、都心の高級住宅地のようなブランド力はないものの、実は都心へのアクセスがいいことなどから周辺の地価が上昇している北千住(足立区)や押上(墨田区)、浅草(台東区)といった人気駅を抱えるのが共通点だ。

 前出の井出さんは「通勤時間の短さに大きな価値を見いだす若い共働き世帯など、『名より実を取る』人たちが積極的に購入している」とみる。

 大阪市では西淀川区(453日)、旭区(363日)、阿倍野区(303日)で販売日数が300日を超えた。分析対象とした20区(生野区、此花区、西成区、平野区は販売物件数が少なかったため除外)のうち11区で200日を超えるなど、販売の長期化が顕著になっている。

 一方、名古屋市で200日を超えたのは南区(482日)と天白区(304日)だけで、需要と供給のバランスが比較的取れていると言えそうだ。(住宅ジャーナリスト・山下和之、編集部・川口穣、上栗崇)

AERA 2020年2月24日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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