首都圏の新築マンションの平均価格はバブル期以来、29年ぶりの高水準となっている(撮影/岸本絢)
首都圏の新築マンションの平均価格はバブル期以来、29年ぶりの高水準となっている(撮影/岸本絢)

 マンションの価格上昇が止まらない。一方で、販売が低調とのデータも公表されている。不動産市場はいま、必ずしも価格=市場価値とは言えない状態だ。AERA2020年2月24日号は、完売までの日数を比較することで、隠された「本当の価値」を読み解く。

【図を見る】新築マンションの販売にかかった日数で「本当の人気エリア」を分析!

*  *  *

「こんなに上がってるの!?」

 都内の会社員女性(40)は昨年、マンション購入を考え、価格を見て驚いた。

「5年ほど前にも検討したのですが、将来結婚すると邪魔になるかもと思って手を出さなかったんです。改めて調べたら、新築時に3800万円で気になっていた部屋が、4500万円で売りに出されていました」

 同じグレードの新築マンションは5千万円を超え、とても手が出ない。駅から離れたエリアや古い物件も調べ始めたが、

「マンションを持つことに憧れはあるけれど、わざわざ不便な物件を買う必要もない。このまま賃貸でいいか……」

 マンションの値上がりが止まらない。不動産経済研究所によると、2019年に首都圏で売り出された新築マンションの平均価格は5980万円で、前年比1.9%上昇。バブル最盛期以来29年ぶりの水準となった。一方、発売から1カ月の契約率は62.6%にとどまり、4年連続で好不調の目安とされる7割を下回った。10月には42.6%というバブル崩壊以来の数字も記録した。

 モノの値段は需要と供給のバランスで決まる。それが経済の大原則のはず。ならば、売れていないのに価格が上がり続けるのはおかしい。現在の不動産市場では、価格が必ずしも市場価値を反映していないのではないか。だとしたら、知りたいのは「本当の価値」だ。

 2014~18年の5年間に売り出された新築マンションの販売にかかった日数を、東京カンテイのデータを元にアエラが独自に分析した。例えば東京23区でみると、最も短い墨田区は販売開始から平均22日で完売しているのに対し、江戸川区は平均143日かかっていることがわかる。さいたま市は228日とさらに長い。

 ほかに販売日数が長いのは、首都圏では川崎市(168日)、練馬区(142日)、目黒区(136日)、横浜市(135日)、杉並区(132日)など。中でも目黒区や杉並区は、14~18年の5年間の平均価格が7千万円を超えており、価格からみれば「超人気エリア」のはずなのに、意外な結果となった。

著者プロフィールを見る
川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

川口穣の記事一覧はこちら
次のページ