「日本政府は当初、ブローカー排除を目的に労働者と直接契約する形を求めましたが、海外労働者はベトナム政府が『労働力輸出』とする国の財産です。結果として送り出し機関を通す形で話は落ち着きましたが、技能実習から試験を伴う特定技能での送り出しに切り替える積極的な理由も見つからず、試験実施さえ決まらない状況です」

 こうした状況に、政府は受験機会の拡大に乗り出した。主なポイントは、観光などを目的に入国する3カ月以内の短期滞在者にも受験機会を拡大することだ。海外とは違い、日本国内では留学生などを対象に技能試験が本格的に始まっている。

 海外では早くも歓迎の声が上がっている。ネパール人材開発(カトマンズ)のサキャ・アノジュ代表(47)はこう話す。

「ネパールでは介護業種以外の試験は行われておらず、実施頻度も少ない状況です。日本で働きたいと願う若者は多く、特定技能に挑戦する受験ツアーを始める準備をしています」

 採用面接も組み入れ、合格者の渡航費などの負担を企業に求める話し合いも進めている。

 今回、受験機会が拡大されたのは短期滞在者だけではない。退学した留学生や失踪した技能実習生にまで受験資格が拡大される。その背景を、出入国在留管理庁の担当者はこう話す。

「学校や企業に問題があり、退学や失踪をせざるを得ない状況に追い込まれた外国人もいます。これまでは一律に受験資格を認めておりませんでしたが、4月以降は受験が可能になります」

 ただ、受験に合格しても、在留資格を得るためには、入管庁の審査に通る必要がある。

 短期滞在者にまで受験機会を拡大するほど、受け入れが進まない特定技能。ベトナムの送り出し機関幹部はこう切り捨てた。

「渡航費も自己負担で、仮に試験に受かっても就職が保証されるわけではない。試験目的の短期滞在ビザで入国し、アンダーグラウンドで働く失踪者が増えるだけでしょう」

(ジャーナリスト・澤田晃宏)

AERA 2020年2月17日号