大相撲初場所13日目、小結阿炎と対戦した炎鵬。突いてくる相手をかわし、体を沈めて潜り込む。すかさず右足を両手で抱えて持ち上げると、炎鵬より50キロ以上重い155キロの阿炎の体が、フワリと持ち上がった (c)朝日新聞社
大相撲初場所13日目、小結阿炎と対戦した炎鵬。突いてくる相手をかわし、体を沈めて潜り込む。すかさず右足を両手で抱えて持ち上げると、炎鵬より50キロ以上重い155キロの阿炎の体が、フワリと持ち上がった (c)朝日新聞社

 徳勝龍の平幕優勝に沸いた大相撲初場所。その土俵を大いに盛り上げたのが、炎鵬ら小兵力士だ。相撲は大きい者が有利。小兵は技でかわすもの。彼らはそんな常識を「真っ向勝負」で覆す。AERA2020年2月17日号は、小兵力士の強さの秘密に迫る。

【土俵を大いに盛り上げた 小兵力士たちをフォトギャラリーでご紹介!】

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「さ、ひっくり返そう。」──。元日、新聞の朝刊に、そんなキャッチコピーが躍った。西武・そごうの全面広告。中央に小さくまわし姿で立っていたのが、大相撲の幕内力士・炎鵬だ。

 身長168センチは42人の幕内力士で最も低い(平均は183センチ)。そんな炎鵬が大きな相手にひるまず挑み、劣勢をひっくり返して勝利をつかむ姿に、メッセージを重ねたのだ。

 1月12日に幕を開けた大相撲初場所の土俵で、そのメッセージは見事に体現された。

 初場所の炎鵬は自己最高位の西前頭5枚目。初の上位陣挑戦で、後の大横綱でも壁にはね返されて大負けすることの多い状況だ。しかし、炎鵬はそんな壁をヒラリと跳び越えた。

 高校の4年先輩で、「雲の上の存在」の遠藤や、大関豪栄道、大関候補ナンバー1の関脇朝乃山、前場所まで大関だった関脇高安、若手ホープの小結阿炎(あび)といった実力者をなぎ倒し、8勝7敗と見事に勝ち越したのだ。

 自身も小兵力士として活躍した元関脇琴錦の朝日山親方は、その要因を卓越した技にみる。

「小さな力士は、有利になっても体力勝負で負ける危険性が高い。炎鵬は、それを避けるのがうまいんですよ。例えばまわしをつかんで投げるとき、最後までまわしをつかんだままだと、体を預けられて潰され、ケガもしかねない。でも、炎鵬は、投げた後でまわしを離し、のしかかる相手をかわす。だから技も決まるし、ケガも防げるのです」

 投げを打つときに、頭を地面すれすれまで振り下げるのも特徴だ。遠心力が生まれ、投げが強力になる。柔道ではよく見られるが、足の裏以外どこでも土俵につけば勝負が決まる相撲では、逆に自分が手や頭をつくリスクが高まり、推奨されない。しかし、体の小さな炎鵬は、大きな相手を倒すために、そんなリスクをいとわない。

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