投球フォームの矯正をうるさく言っても直らなかった投手が、チームを離れたとたんに直っていたということもある。

「人徳がないのかな。(息子の)カツノリのほうが、親を反面教師にしたのか誰からも悪口を言われない人間だ。あいつに二軍監督をやらせようか」
 
■全人生賭けた日米戦争

 ところで、楽天ではどんな野球をやっていくのだろうか。

「今のパ・リーグの野球はいかにも荒っぽい。昨シーズン、プレーオフを見ていたが、解説する側は困る。一球一球、本当に考えて野球をやっているのかと」

 ライバル視するのが、バレンタイン監督率いるロッテだ。野村氏が批判してきたプレーオフ制度にのり、リーグ2位で「日本一」に。

「前の戦争に負けた人間としては、外国人の監督に勝たれて悔しくないのかと。日本が国際的になったといっても、外国人がリーダーのチームに勝たれるのは寂しい」

 仰木氏同様、選手の自主性を重んじ、褒めて育てて、31年ぶりの優勝に導いたボビー流は、ビジネス社会でも持てはやされて、組織の管理術でも『野村ノート』をしのぐ人気だ。だが、心にもない褒め言葉で今どきの連中に接しねばならないことに、いい加減うんざりしている中間管理職も少なからずいる。そうした人のために、「叱って育てる野村流」のコツを、と最後にお願いすると、即座に、教育の問題ですよ、という返事。

「リトルリーグの監督をしていたが、中学生があいさつができない。弁当を速く食うこともできないんだ。そういうところから教えないといけないんだよ。これは、日本の危機ですよ」

 そして、「ボビーマジック」に対抗してか、

「野村再生工場より格好いい呼び名を探しているんだ。あなた、何かないかね」

 対ロッテは、野球だけの問題ではない。全人生を賭けた日米戦争が、始まろうとしている。(編集部・福井洋平)

※AERA 2006年1月23日号掲載

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福井洋平

福井洋平

2001年朝日新聞社に入社。週刊朝日、青森総局、AERA、AERAムック教育、ジュニア編集部などを経て2023年「あさがくナビ」編集長に就任。「就活ニュースペーパー」で就活生の役に立つ情報を発信中。

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