「死までの時間は有限であり、その限られた時間を長い時間軸で見て、患者さんの自分らしい生き方を支えることです」

 同診療所は13年の開設。「自宅で自分らしく死ねる、そういう世の中をつくる」を理念に掲げ、在宅医療の充実を図ってきた。18年度は新規患者数759件で看取りは404件と、今では全国トップクラス。それを実現させた要因が「在宅医療PA」という独自の職種。今、在宅医療における画期的な取り組みとして注目されている。

 PAは「Physician Assistant(フィジシャン アシスタント)」の略で、アメリカでは点滴管理など医療行為を行える国家資格として普及している制度だ。在宅医療PAはそれを下地に14年、安井医師が日本で初めて在宅医療の現場に取り入れた。

 在宅医療PAは現在、約30人。そのうち3分の2は元エンジニアや携帯電話のショップ店員といった看護や介護系以外の異業種からきた人たち。仕事は診療補佐やカルテの作成。さらに医師と患者・家族、医師とケアマネジャーら他職種とを橋渡しする役割を担う。在宅医療PAの導入によって医師1人の1日の診療件数を1.7倍に増やすことができ、質の高い医療の提供が可能になったという。

 51年の時点では、日本人の82.5%が自宅で最期を迎えていた。しかし、医療の効率化とともに73%の人が病院で亡くなるようになり、今や自宅で最期を迎えるのは13.2%(17年)に過ぎない。安井医師の在宅医としての原動力は、この数字を少しでも上げることだという。

「本当は自宅で死なせてあげたかった、家族からそんな後悔の言葉を聞くたび心に刺さります。僕たちが救える人たちはもっといる。最期まで自分らしく自宅で生きる人を少しでも増やす。それが僕たちの、世の中をつくるという理念です」

(編集部・野村昌二)

AERA 2020年2月17日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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