「在宅医療の知識も経験も乏しい病院勤務のアルバイト医師を雇う診療所も少なくない」

 そもそも在宅医療は1992年、医療法改正で「居宅」が医療提供の場に位置づけられたことから制度上認められた。それまで往診は診療報酬が低いサービスだったが法改正によって保険点数が有利となり、1人の在宅患者を抱えると月8万円近くもらえることになった。これが在宅医療の充実につながると同時に、在宅医療をビジネスとして考える経営者も出てきた。特に彼らが目をつけたのが、11年の高齢者住まい法の改正で創設された、バリアフリー賃貸で在宅医療の訪問診療の対象になった「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」だ。太田事務局長は言う。

「サ高住では施設側が指定した医師の往診を入所条件にするため悪質な在宅医療を行う環境になりやすい。そこでは食堂のような場所に入居者を一堂に集めてざっと診るだけ、診察するのはアルバイトの医師、ということもあります」

 また、在宅に特化した診療所ならば、X線など高額な医療機器の設備投資は必要ない。開業は「届け出制」のため、医師なら誰でも「在宅医」を名乗って開業できる。

「特に大都市圏では在宅医は過剰に増えつつありますが、在宅にかける熱意が低い医師もいます」(太田事務局長)

 在宅診療において苦情が多いのが、冒頭のように24時間診察をしないケースだ。「何度電話してもつながらず、連絡が来たのは翌朝」「夜中に電話すると、救急車を呼べと言われた」という人もいた。

 知識や準備なしに、よい在宅医を探すのは簡単ではない。関東地方に住む60代の男性は神経系の難病を患う60代の妻を自宅で介護する。男性は振り返る。

「在宅医療の仕組みがわからず予備知識もまったくない。言われるままだった」

 男性は3年ほど前、妻を在宅で介護するに当たり、ケアマネジャーや医師会が薦める在宅医に在宅医療を頼んだ。だがその在宅医は、診察は訪問看護師任せで、自分は口で指示を出すだけ。立ち会った家族は不安を覚えた。

 男性は当初、在宅医療とはそういうものかと思っていたが、自宅に出入りする訪問看護師などから熱意があり医療技術もしっかりしている診療所を紹介してもらった。今は安心して自宅で医療を受けることができるという。

「いい在宅医を選ぶためには、事前の情報が重要だと思います」(男性)

(編集部・野村昌二)

AERA 2020年2月17日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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