自己診断で挙げた強みも、いざというとき発揮できなければ意味がない。次に取り組むのは逆境の記憶の棚卸しだ。

 不本意な異動を命じられたとき、どうやってモチベーション維持に努めたか。そのとき、どういう強みや持ち味を発揮して乗り越えたのか。こうした経験をいつでも記憶の棚から取り出せるようにしておけば、実践での応用力や再現性が高まる。

 自分の過去から現在を俯瞰(ふかん)した後、いよいよ将来を考えるステップに入る。

 大事なのは目先ではなく、「15年後」をイメージすることだ。なぜ15年なのか。5年だとある程度、具体的に見通せるが、15年だと想像力が必要になる。その人らしい自由な発想を抽出することができるのだ。

 政府の報告書や自社の中期経営計画をヒントに、社会や自分の会社にどんな変化が起きているか、どんな影響を自分に及ぼしそうか、という観点から15年後の未来を想像する。そこに結婚子育て、住宅購入、介護などプライベート上の環境変化の予測も加えてみよう。

 15年後を具体的にイメージすることで、社会のどういう変化を自分はチャンスと捉えたいのかが見えるはずだ。その上で今、どう行動するべきなのか、現在の問題に立ち戻ろう。

 ここであらためて「今の会社で一番やりたいこと」「今の会社で2番目にやりたいこと」「今の会社以外で自分がやりたいこと」の3点について考えると、問題が整理されて視界がクリアになる、というわけだ。

 仕上げはアクションプランの明示だ。大事なのはどんなに小さなことでも、やりたいことの実現に向けて「明日、何をするのか」を具体的に決めること。たとえば、社内の別の部署に移りたいのであれば、その部署の人に話を聞く。転職を希望するのであれば、転職サイトを見たり、社外に出た先輩の話を聞いたりする。大学の同窓会に参加し、他業界の状況や考え方を知ることでもよい。

 どう働くかは、どう生きるかということでもある。問われているのは、目先の仕事だけでなく、自分の人生をトータルでどう組み立てていきたいのか、という主体的な構想力だ。納得のいく生き方は自分にしか決められない。(編集部・渡辺豪)

AERA 2020年2月17日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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