撮影/写真部・小黒冴夏
撮影/写真部・小黒冴夏

 うまい日本酒といえば淡麗辛口。そんな「常識」はもはや通用しない。地方ごと、蔵元ごと、造り手ごとの個性が光る多種多様な酒を楽しむ時代がやってきた。うまいかどうか。決めるのは自分だ。AERA 2020年2月17日号の記事を紹介する。

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 幕末から続く蔵元、泉橋酒造(神奈川県海老名市)。その一角で、男性5人、女性5人が、米国出身で利き酒師の資格を持つジャスティン・ポッツさんの説明に食い入るように聴き入っていた。

「酒はそもそも何でできていますか? rice、water……それも知らないと思った方がいいです」

 東京五輪まで半年を切ったいま、海外からの観光客に日本酒の魅力を知ってもらうため、通訳案内士の資格を持った人を対象に開かれた「酒蔵ガイドインターンシップ」だ。バスツアーの通訳案内をしている女性参加者(50)はこう話す。

「いろいろな国の方を案内するのですが、ここ最近日本酒に興味を持ったお客さんがかなり増えています。日本酒はあまり知らなかったので勉強しないとと思って参加しました」

 年々世界的な認知度がアップしている日本酒。日本酒の輸出総額は、9年連続で過去最高記録を更新。18年度に初めて200億円を突破し、19年度は高級酒の一大市場である香港の情勢や日韓関係が悪化した余波を受けながらも、234億円と、10年連続で過去最高記録を更新した。

 日本酒造組合中央会の宇都宮仁理事(60)は言う。

「中国への輸出が急激に増えています。香港と中国を合わせると、米国を抜いている状況です」

 東京・新宿から快速急行で40分強の神奈川県海老名市は、丹沢山系から流れてくる三つの川の合流点に位置し、ミネラル豊富な硬い伏流水に恵まれた土地だ。1857(安政4)年創業の泉橋酒造は「栽培醸造蔵」を名乗り、東京ドーム9個分の田んぼで原料米の栽培から精米・醸造まで一貫して行っている。橋場友一社長(51)はこう話す。

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