「今の環境だったらまだ頑張って働けます。海外との取引が多く、英語を生かすこともできるため、自尊心を失わず働くことができるのもいい。納得して働ける環境にたどり着けたのは良かったと思います」(女性)

「人生100年時代」を迎え、政府は本人が希望すれば、70歳まで働ける機会をつくる努力義務を企業に課す方針だ。法律の改正案を今期の通常国会に提出、来年春からのスタートを目指す。

「定年」が延び、給料が上がり続けるわけでもない。ずっとハイペースで走り続けるのは、もう難しい。長く現役でいるために、自分の軸足をどこに置き、どうペース配分したらよいのか。

「他の会社で働いていたら自分の人生はどうなっていただろう」

 首都圏在住の会社員男性(47)は、45歳を過ぎた頃から時折、自問自答するようになった。

 与えられた課題を着実にこなしてきた実感はあったが、技術職の職場は1人で対応する仕事が多く、他人と成果を比較することもなかった。しかし、新卒で入社した「同期」がどんどん出世し、課長に昇進する人も出始めると、さすがに意識せずにはいられなくなった。妻と小・中学生の娘の4人暮らし。

「生活を考えると、この年になって下手には動けないですね」

 男性は機械メーカーに就職したが、数年後に倒産。新卒時、第1志望だった輸送サービス会社に再チャレンジし、中途採用された。30歳のときだ。

 中途採用者が「ノンキャリア」として扱われることは承知していた。しかし、10歳も若い新卒採用の同期が昇進する中、大学院卒の自分が中途採用という理由だけで、今もヒラ社員であることに割り切れない思いがある。

「人事制度上、仕方がないとは思っています。しかし正直、楽しくはないですね」

 このまま、会社だけの人生ではつまらないという思いが募った。そんなとき、地元で女子中学生が誘拐される事件が起きた。被害者と年齢の近い2人の娘が頭をよぎり、男性は地域防犯に関心をもつようになる。

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