稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
使い古してフニャフニャになったタオルが具合良し。銭湯の景品ゆっポくんタオル大活躍(写真:本人提供)
使い古してフニャフニャになったタオルが具合良し。銭湯の景品ゆっポくんタオル大活躍(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】銭湯の景品ゆっポくんタオルが乾布摩擦で大活躍

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 先日55歳になった。四捨五入すれば60である。いや~人生ってホント怖いですね。50代までは中年、60からは老人というのが小さい頃からの勝手なイメージだった。つまりは私はリアルに老人界に片足を踏み入れたのだ。なのに加齢が進むほど現実と実感の乖離はひどくなる一方。何せ本人、高校生かと思うレベルで未だに小さなことでキャイキャイと喜んでいる。

 最近ウォッと喜んだのは、「ノー暖房」の我が家で、冬の寒さをしのぐ新たな方法を獲得したことであった。

 乾布摩擦である。

 私、実は毎朝ごま油で全身をマッサージして布で拭き取るアーユルベーダの健康法を採用しているのだが、これが冬はまあまあ辛い。濡れた布で体を拭くのがチベタイのだ。タオルを温めても快適なのは拭いた瞬間だけで、直後から逆に冷える。なるほど水分は体から熱を奪うのだと気づき、フト、そうかだから乾布摩擦ってものがあるのだとひらめいた。で、さっそく人生初乾布摩擦に挑戦。サザエさんの波平の姿を思いだして、乾いたタオルで背中をシュッシュと斜めにこする。

 いやーこれがもう驚いたのなんの! 空気をふんわり抱えた布の刺激がめっちゃ気持ちいい! で、超ホッカホカ! 暖房を止めてから10年近く寒さと対峙し、足湯やら湯たんぽやら火鉢やら銭湯やら様々なことをやってきたがこれは盲点であった。ダントツで手早く簡単、しかも何のエネルギーも使わない。CO2フリー。「空気を温めるな、自分を温めろ」というのが我がノー暖房ライフの合言葉だが、これは究極である。空気も湯も経由せず、まさに直接自分を温めているのである。

 そう考えていくと、先日ご報告した「暖房を止めたら冷えが改善した」のも当然ではないか。暖房をやめて生き抜くにはこのように自分を温める努力を続けるしかない。自分を温めるとは即ち冷えの改善である。単純すぎておかしい気もしてくるが、おかしくない。暖房は冷えの元! まさかの皮肉にキャッキャとほくそ笑む半老人である。

AERA 2020年2月10日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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