「がん細胞ならではのメカニズムがカギ。まさに今、がん細胞が何をしようとしているかが、マイクロRNAを見ることで手に取るようにわかるだろうと考えています」(落谷教授)

 目指すのは、がん検診での実用化だ。だが、落谷教授は言う。

「私たちがあらゆるがん種での研究で軒並み90%を超えるような精度を出しても、なお、導入に踏み切れないのは、まだ検証が足りないから。これまでの研究では、すでに現場でがんとわかった人を対象に計算式を作っており、比較的いい精度を出しやすい。けれど、これが本当に検診で一般の人を調べたときに『がんです』と見分けられるかは別の次元。新たな検証が欠かせません」

 実はマイクロRNAを使うリキッドバイオプシーの用途は、早期発見のための検診ばかりではない。治療効果のモニタリングにも広がると考えられている。

 前出の大野さんは取材時、3種類の脳腫瘍画像を指しながら、「医師でも判別を迷うことがある」と話した。将来、脳腫瘍のタイプが正確に判別できるようになれば、診断目的の脳の外科手術を減らせるという。なかには放射線や抗がん剤がよく効く腫瘍もあるためだ。

「脳の手術は患者さんへの負荷が大きい。僕らは手術を行うのが仕事ですが、手術だけでなく、より負担の少ない診断や治療の方法も探しています」(大野さん)

(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2020年2月10日号より抜粋