実際には、今回の肺炎を巻き起こした新型コロナウイルスをどこまで恐れるべきなのか。

 世界の専門家が注目するのが、ウイルスが持つ「病原性」と「感染力」だ。病原性は感染した患者の症状を重くさせる度合いを、感染力は1人から何人の人に広げることができるかを示す。これらにはウイルスそのものの毒性だけでなく、人間の側の防御力といった要素も絡まり合っている。

 病原性を示す指標の一つになるのは、感染した人のうち亡くなった人の割合にあたる「致死率」だ。西アフリカなどで広まったエボラウイルスの致死率は63%にも達し、極めて高い。同じコロナウイルスが原因で、2002~03年に中国などで流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)のウイルスは9.6だ。これに対し、今回のウイルスの致死率は、30日現在のWHOのまとめによると2.2。エボラやSARSに比べれば、ウイルスの病原性は低いといえそうだ。

 ただ、ただちに安心とまでは言えない。09年にパンデミックを起こしたインフルエンザウイルス(pH1N1)の致死率は0.02~0.4ともいわれる。防衛医科大の川名明彦教授(感染症・呼吸器内科)は「インフルエンザに比べ、今回のウイルスの病原性は十分に高い。いまの段階では、決して甘くみてはいけない」と話す。

 防御力の観点でみると、今回のウイルスに感染して重症化しやすいのは、抵抗力の弱い高齢者のほか、高血圧や糖尿病など、何らかの病気を抱えた人だ。こうした人たちでは一層の注意がいる。感染力はどうか。

 SARSの場合、1人の患者から感染する人数は3人程度。新型コロナウイルスは1月23日の段階では1.4~2.5人といわれた。ただ、ここ数日で感染者数が激増していることからみれば、実際の数値はこれを上回りそうだ。(朝日新聞編集委員・田村建二、 編集部・小田健司)

AERA 2020年2月10日号より抜粋