斎藤真理子(さいとう・まりこ)/1960年、新潟県生まれ。翻訳家。2015年、『カステラ』(ヒョン・ジェフンとの共訳)で第1回日本翻訳大賞。訳書に『すべての、白いものたちの』他多数(撮影/写真部・片山菜緒子)
斎藤真理子(さいとう・まりこ)/1960年、新潟県生まれ。翻訳家。2015年、『カステラ』(ヒョン・ジェフンとの共訳)で第1回日本翻訳大賞。訳書に『すべての、白いものたちの』他多数(撮影/写真部・片山菜緒子)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

【写真】フェミニズムをはじめとした社会運動や対抗文化に関するジン、グッズを販売するショップも

 斎藤真理子さんによる『完全版 韓国・フェミニズム・日本』は、創刊以来の3刷となった「文藝」2019年秋季号を、内容も新たに編み直したもの。書き下ろしエッセーのほか、ブックガイドやキーワード集も収録し、入門書としてもふさわしい一冊だ。著者の斎藤さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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「韓国と日本は同じアジアの国で、共通項も多いけれど、小説を読んでいると違いを感じる。適度な距離感があるのも魅力なんだと思います」

 そう語る斎藤真理子さん(59)は、話題のベストセラー『82年生まれ、キム・ジヨン』の翻訳者だ。

「韓国の人たちは非常に厳しい歴史を生き抜いてきました。そうした中で書かれる作品には力があり、幅が広い。だから日本でも、読書家から普段は海外文学を読まない人にまで、手にとってもらえたのだと思います」

「斎藤さんが訳しているのなら面白いに違いない」と考える読者も少なくない。そうしたファンを持つ斎藤さんが昨年、企画協力したのが「文藝」の「韓国・フェミニズム・日本」特集だ。

「『文藝』は結局、3刷になりました。3刷は1933年の創刊以来、86年ぶりとのことです。その時に『文芸誌は今、総合誌の役割も期待されているのではないか』と思いました。面白い小説が求められるのはもちろんですが、同時に社会と世界について考えたい人、自分の考えを一歩進めるためのヒントがあるのでは、と鼻を利かせた人が読者になってくれた」

 斎藤さんが責任編集を務め「完全版」と謳った本書は、「文藝」の特集号に加えて多くの新コンテンツを収録、新たな書籍となっている。たとえば今、韓国で最も注目されている実力派作家、ファン・ジョンウン、チェ・ウニョンによる書き下ろしエッセーや韓国文学の最前線と呼ぶべき作家による作品を掲載したほか、「厳選ブックガイド36冊」「現代K文学マップ」などの特別企画を新たに収めた。韓国文学ファンを満足させるだけでなく、初心者への入門書としてもわかりやすい内容だ。

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