稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
雪の中、試験会場に向かう受験生。青春だなあ。一生懸命ってことが青春なのだ (c)朝日新聞社
雪の中、試験会場に向かう受験生。青春だなあ。一生懸命ってことが青春なのだ (c)朝日新聞社

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

*  *  *

 先日珍しく電車で出かける用があり、帰ってきたら、最寄駅に「努力を信じてがんばれ受験生! 駅員一同」という手作りの横断幕が。そうかそういう季節なんだね。37年前の受験生(私)もどこぞの駅で同様のものを見て心がキュッとしたことを思い出す。もちろん駅員の方々は私の応援どころか顔も知らないとわかってはいたが、それでも、誰かが自分(を含む受験生)のことを気にかけてくれたことが意外なほど身にしみた。

 改めて遠い記憶を掘り返すと、そのくらい追い詰められていたのだ。共通一次世代なので5教科7科目という超人的多科目を受験に間に合わせねばならず、どう考えても無理だった。冗談かと思うほど準備が整わぬ状態で試合のゴングが鳴り、しかもそれで将来が決まるという世の過酷さに驚く18歳。だが逃げるわけにもいかず、全くの破れかぶれで当日を迎えたためほぼ無の境地に。それが奏功したのか、模試では一度とて合格圏内に入ったことのない志望大学に奇跡的に合格した。あの瞬間の嬉しさはやはり人生トップクラスである。なんとかやった。ゴールテープを切った。そう思ったのだ。

 で。我が人生で最も驚いたことといえば、それはなんとゴールでもなんでもなかったのである。

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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