とんでもないほど女性にモテた脱獄犯「カサノヴァ」と梅毒 医師が考える治癒の謎 (2/2) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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とんでもないほど女性にモテた脱獄犯「カサノヴァ」と梅毒 医師が考える治癒の謎

連載「歴史上の人物を診る」

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早川智AERA#AERAオンライン限定
写真はイメージです(写真/gettyimages)

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 カサノヴァは欧州各地を回るうちに、1千人を超える有名無名の女性と交際し、その記録を自伝『我が生涯の物語』に残しているが、詳細は省略。興味ある方は日本語訳もあるのでお読みいただきたいが、筆者が興味あるのは梅毒罹患のくだりである。

 当時のヨーロッパの流行状況からして彼が罹ったのは当然であるが、誰からかはわからない。最初の感染は若手士官の時ベネチア領だったコルフ島の娼婦、何度か二期疹が出たあと自然治癒している。彼の長大な自伝をコンパクトにまとめた鹿島茂氏の『カサノヴァ 人類史上最高にモテた男』では5回以上再感染したことになっているが、体内に潜伏した梅毒が繰り返し出現したかもしれないし、梅毒では有効な中和抗体や細胞性免疫ができないので本当にいったん治癒しては再感染したかもしれない。

 鹿島氏は、カサノヴァが若い時身に着けた薬学の知識と得意のカヴァラの秘法によるペテンで愛人たちの梅毒を治療し、ますます信頼されたとしているが、当時としては水銀軟膏の塗布くらいしか治療薬がなく、これだけで治癒したとはなかなか考え難い。さらに一般的だった水銀蒸気の吸入は効果よりも副作用が強くこれを受けなかったことが彼をして73歳まで長命した理由かもしれない。

 さて、梅毒患者が無治療でもすべて3期4期まで進行するわけではなく、2期疹が出た後、天寿を全うすることも少なくない。血液型のO型はなぜか梅毒に抵抗性であり、罹りにくいし重症化し難い。

 したがって、もともと梅毒の流行していた南米原住民ではO型が多いという。進化の上で選択されたわけである。O型はヨーロッパや日本でもA型の次に多く、梅毒伝来前から何らかの感染症に対する抵抗性として進化してきた可能性がある。

 カサノヴァは同じプレイボーイでもドンファンのように過去の交際相手を捨てず、可能な限り関係を続けるとともに、関係がなくなっても親身に昔の恋人たちの世話をしたというが、俗にいうところの「開けっぴろげで付き合いの良い」O型性格を連想させる。

 もちろん、医学心理学的に血液型性格判断は何の根拠もないが、彼の場合は妙に納得できる。

○早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など

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早川智

早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など

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