例えば、ヨコハマ・ディビジョンの楽曲は、実際に神奈川出身で横浜を拠点に活動しているサイプレス上野やUZIが提供。オオサカは、大阪出身でフリースタイルダンジョンのラスボスも務めるR-指定が作詞を、先の世界大会で優勝し世界一のDJとなったDJ松永が作曲を担当。ナゴヤの楽曲は名古屋を中心に活躍するnobodyknows+のメンバーが制作するなど、ヒプマイの楽曲には、日本のヒップホップの歴史と現在のシーンが心憎いまでに投影されているのだ。

 プロのラッパーであり、声優学科のある専門学校でラップの講師を務めるマチーデフは言う。

「ヒップホップはコラボやフィーチャリングなどの関係性にストーリーがある。ヒプマイは現実のヒップホップシーンをモデルとしている部分が多くあるので、それを入り口にしてリアルのヒップホップに触れ、ハマる人も増えています」

 用意された楽曲がどんなに優れていても、本職のラッパーではない声優が歌うことがマイナスにはならないのか。

 マチーデフは、「ラップと声優さんの相性は良い」と話す。

「やや乱暴ですが、メロディーがあるポップスに対し、メロディーがないのがラップ。ポップスに比べ音程の上下が少ないラップはキャラの演技をしたまま歌いあげやすい。ラップは音程よりもアクセントや声の表情を付けることが大切で、そこが素人には難しいのですが、声優さんは声で演技をするプロです。リズムの取り方が多少つたなくても、声の表情の豊かさは、もしかするとプロのラッパーよりも上かもしれません」

「ドラえもん」の2代目ジャイアン役で知られ、イケブクロのリーダー山田一郎役を務める木村昴の貢献も大きい。木村は声優のかたわらラップグループを結成し、作詞を手がけるヒップホップミュージシャンでもある。木村が他の声優にラップの指導をするなど、プロジェクト全体に好影響を与えているという。

 社会現象となりつつあるヒプマイ。自身が主宰するヒップホップ専門ネットラジオ局「WREP」で積極的に全国で活躍するラッパーたちを紹介しているZeebraが期待するのは、ヒプマイをきっかけに地方のヒップホップシーンに光が当たることだ。

「ヒップホップは地元に根付いて発信するのが基本。全国には地元の言葉で発信し続けるたくさんのラッパーがいます」

 19年にオオサカとナゴヤを加えたヒプマイ。その熱風が全国を覆う日は近い。

(ライター・南理子、編集部・上栗崇)

AERA 2020年2月3日号