「ヒップホップって、過去の曲のフレーズをサンプリングして使ったりするので、それを知ってる奴がかっこいい。『これって誰々の○○にあったフレーズだよ』なんて風に、知識があった方が楽しめる。そういう意味では、僕もヒップホップに関しては超オタクです。対象がアニメか、鉄道か、ヒップホップかという違いですね」

 Zeebraがヒップホップファンに潜む「オタク」たちの存在に気付いたのは、SNSの普及がきっかけだった。

「ヒップホップのファンと言えばおっかない格好して、乱暴な言葉遣いで、みたいなのをイメージする人が多いと思うんです。でもSNSを見ていると、アイコンにアニメキャラクターを使っている気弱そうな男の子が『Zeebraの曲を聴いて気合を入れて面接に行ってきました』っていうような投稿がたくさんあった。ヒーローものとかカンフーものの映画を見て勇気をもらうような感じなんでしょう。たぶん彼らは危ないと思ってライブには来ないから、顕在化しなかったんです」

 ヒプマイがヒットした理由の一つは、「声優」という味付けがヒップホップの暴力的、危険といったニオイを薄め、オタク文化との相乗効果を最大化したことにありそうだ。

 もう一つ、ヒプマイのヒットを生む土台となったのが、テレビ朝日系「フリースタイルダンジョン」に代表されるラップバトル番組の存在だ。

 12年7月に始まった「高校生RAP選手権」や15年9月に始まったフリースタイルダンジョンは動画サイトなどでも拡散され、流行に敏感な中高生らに広く認識された。Zeebraはこう分析する。

「ヒプマイでガラッと変わったのは、女性人気です。長い間、ヒップホップのファンは男性が中心だった。ラップバトルが若い女性にも最新のかっこいい流行だと認識され、しかもそれがかっこいい声優さんたちによって行われることで、一気に女性を引き寄せたんだと思います」

 ヒプマイのCDにはラップに加え、声優によるドラマパートが収録されている。各ディビジョンのキャラクターによって展開されるストーリーは、音楽に劣らぬ人気コンテンツだ。19年には「2・5次元」と呼ばれる舞台となり、20年にはアニメ化も予定されている。

「なるほど、若い女性向けの流行(はや)りものか」。ここまで読んでそう思われたあなた。はっきり言って、大間違いだ。

 前述したように、楽曲の制作陣には日本にヒップホップ文化をもたらし、進化させてきた超一流のクリエーターたちが名前を連ねている。しかも、ただ大物を並べているだけではない。

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