後半も「愛という名の欲望」、デビッド・ボウイと共作した「アンダー・プレッシャー」。そして日本で人気の高い「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」では、ブライアンも、ロジャーも演奏中に笑顔を見せる。曲調は「ドント・ストップ・ミー・ナウ」に、内容は「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」に相通じる曲だ。ステージのコンセプトは王冠を頂いた劇場のような趣向。派手やかにレーザー光線が多用される一方、天体、宇宙、天空、天国をイメージさせる照明や大小装置が駆使された。天体物理学博士でもあるブライアンの面目躍如たる一面も目立った。

 ため息が出るような「テイク・マイ・ブレス・アウェイ」の出だしのフレディの音源に「リヴ・フォーエヴァー」が続く。愛するために生まれた人間の歌、永遠に生きることを誰が望むのかと問う歌。選曲に生と死の影が横切る。この世に生まれて来たフレディが天界に召されていくような気分。映画でエイズの宣告を受けた時に流れていた曲でもあり、深刻で厳粛な時間が流れた。

 そしてフレディやクイーンが体現してきたことを象徴する「ショウ・マスト・ゴー・オン」が演奏された。「ショウ~」は、超高音を張り上げるフレディの絶唱とも言える曲。これがライヴで立体化されたのは、アダムの超高音なくしてはかなわなかった。フレディもこの演奏を喜んだだろう。彼が録音した時は、目に見えて病気が悪化し、死が近づいていたころだ。「僕の代わりにライヴで歌ってくれてありがとう」というフレディの声が聞こえてくるようだ。

 かつて、ブライアンへのインタビューで、「クイーン+」というのは一種の「プロジェクト」なのか、と聞いたことがあった。いま、それは的外れな質問だったように思う。彼らは、映画で描かれていたようにクイーンという「家族」なのだ。そこにアダムは迎え入れられ、「家族」の一員になったと痛感したのが、今公演だった。

 その証しが、「ラプソディ・ツアー」の中核曲「ボヘミアン・ラプソディ」で推察できた。2014年、2016年の日本での「クイーン+アダム・ランバート」ライヴで、この曲はフレディのライヴ映像を2箇所で織り交ぜ、アダムと歌い交わすような演出もあり、多くの涙を誘った。フレディの声の麗しさが際だったものだ。しかし、今回は、最初の「Is this the real life~」の多重録音部分はフレディの音源で、これにアダムが「I’m just a poor boy~」と歌をかぶせる演出。オペラティック・パートは1970年代のクイーン4人のオリジナル映像を流したが、フレディのライヴ映像は最後まで出てこなかった。

 ここに、アダムを「家族」として受け入れたクイーンの姿勢が見える。新しい局面になったのだ。

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椅子に倒れ込む女性も