ワンポイントで活躍した投手たちは、この流れをどう見ているのだろうか。

 件の遠山さんは「ワンポイントは戦略」だとして、戦略を狭めるルール変更に異を唱える。

「頭を使い、戦略で戦うのが日本野球のおもしろさで、ワンポイントもそのひとつ。使う、使わないは監督次第ですが、取れる戦略を狭めれば野球が均一化してしまいます」

 現役生活を振り返りながら影響を指摘する元選手もいる。

「仮にこのルールがあったら、僕はここまで現役を続けられなかったと思います」

 そう話すのは、元ヤクルトの久古(きゅうこ)健太郎さん(33)。変則のサウスポーとして知られ、2018年に引退するまでにプロ生活8年で228試合に登板したが、投球回は160回2/3。シーズンごとに見ても、投球回が登板試合数を上回った年が一度もない、典型的なショートリリーバーだ。久古さんは入団時から、「対左打者のワンポイント」での起用を明言されていた。

「左のサイドスローでシュート回転する僕のボールは左打者向きで、僕自身も左をどう抑えるかにフォーカスしていました。“ワンポイント禁止”ルールがあったら武器を生かしづらく、必要とされなくなるのも早かったと思います」(久古さん)

 一方、ルール導入については必ずしも否定しない。

「現段階で導入する意義は感じませんが、大事なのはファンがどう考えるか。戦略的な投手交代を楽しみたいという声が多いなら避けるべきですし、投手交代で流れが切れるのがイヤだというファンが多いなら導入もありだと思います」

 ファン目線での熟議が必要だ。(編集部・川口穣)

AERA 2020年2月3日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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