ハリー英王子夫妻が示した王室の主要メンバーから身を引く意向は、エリザベス女王にも認められ、今春に公務から離れる方針がかたまった。次男ならではの自由さだけではなく、母からの教訓も垣間見える。AERA 2020年1月27日号で掲載された記事を紹介する。
【写真】記念ミサで顔をそろえたウィリアム王子、ハリー王子、メーガン妃、キャサリン妃
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少し古い話で恐縮だが、1997年、英国のダイアナ元皇太子妃がパリで亡くなった時、スコットランドで静養中だったエリザベス女王は「王室を離れた人」に何の反応もしなかった。一方、ケンジントン宮殿前には何万という国民が花束を持って集まり、悲劇を悼んだ。ロンドンに戻った女王はうずたかく積まれた花を見て事態の重大さを知り、最大限の弔意を表した。2006年に映画「クィーン」にもなった有名な話だ。
関東学院大学の君塚直隆教授は著書『立憲君主制の現在』で、この時の国民の反応は「自己投影」だと書いている。サッチャー政権が進めた「自由競争」で格差が拡大、「ダイアナも自分も弱者だ」という認識が広がっていた。女王はこの状況についていけなかったが、教訓を得た。そして「これ以後、王室はホームページや最新の通信手段を利用して、広報活動に邁進した」。君塚教授はこれを「『ダイアナ事件』の教訓」と名づけている。
昨今の英国王室で母からの教訓をめいっぱい生かしているのが、ハリー王子(35)とメーガン妃(38)夫妻だろう。
1月8日、「王室の高位メンバーから身を引き、1年の半分を北米で暮らし、『革新的で新たな役割』を模索したい」と発表したのはインスタグラム。同日、新たなウェブサイトも開設、収入の明細、財政的に独立する道筋など「現在とこれから」を説明している。
先手先手で情報戦を仕掛けている夫妻に、エリザベス女王(93)も白旗を掲げたということだろうか。1月13日夕、「若い家族として新しい人生を築きたいという望みを全面的に支持する」と、声明を発表した。同時に「複雑な問題があり、さらにやるべきことがある」とも言っていて、やはりお金のことがこれからの二人の運命を左右するだろうと思う。