イランは、最高指導者を頂点にイスラム教に厳格な社会を目指しているが、イスラム革命から40年経ち、社会に変化が表れている。

 未婚男女の交際は本来「ご法度」だが、テヘランなどの公園では手をつないだり、抱き合ったりする10代の未婚とみられるカップルを見かけることも多い。女性が公共の場で着用を義務づけられる「ヘジャブ」と呼ばれる頭髪を隠す布も批判が強く、髪の毛の一部を露出する女性の姿も目立つ。

 公共の場での最高指導者への批判は許されず、デモも、政府などが動員した体制支持のもの以外は原則として禁止されている。それでも2009年には大統領選挙の結果などに不満を持った市民が大規模な反体制デモを実施し、治安部隊との衝突などで100人以上が死傷した。

 イランでは、15年に米欧などと結んだ核合意から離脱したトランプ米政権の制裁で外貨獲得の屋台骨である原油輸出が激減し、経済が低迷。物価高や現地通貨の急落で市民生活は苦しい状態が続く。19年11月には、ガソリン価格の値上げが市民の不満に火をつけ、反政府デモが全土に拡散した。

 だが、現在イランで散発的に起きているデモはこのときとは異なり、体制そのものへの反発の色が濃くなっている。

 参加者やネット上に出回っている動画によると、批判はハメネイ師とイスラム体制の象徴的存在である革命防衛隊に向いている模様だ。普段は体制に迎合的なイランメディアもウクライナ機への誤射を「恥」と評するなど、国民の体制への不満が一気に噴き出したとも言え、怒りは収まりそうもない。

 国民的英雄だった革命防衛隊のソレイマニ司令官(62)が3日、米軍に殺害され、反米で国民が結束したかに見えたイラン。米国との緊張関係は続き、指導部や政府が収拾策を誤れば国内外で窮地に陥りかねない。(朝日新聞テヘラン支局長・杉崎慎弥)

AERA 2020年1月27日号