カーボンプレートが搭載されたシューズは、日本のブランドも開発中と言われており、今回の箱根駅伝でも投入されているという。特に印象的だったのは、10区で区間新記録を出した創価大学の選手が着用した白いシューズだ。

「これはミズノが開発中のシューズです。ナイキという黒船来航の逆風の中、ミズノは8区間9人の選手が謎の白いシューズを着用する状況を作り出しました。そのインパクトは大きかったと思います」(藤原さん)

 日本の陸上界では金栗四三(かなくりしそう)以来、道具には頼らず心身を鍛えてレースに臨むという考え方が根強くあり、海外の動向とは異なって地面の感触がある薄底の靴が好まれてきた。

 しかしヴェイパーフライという“黒船”の到来で、選手がカスタムではなく既製品を履くようになった。ナイキでさえ箱根駅伝に新規参入した際には日本市場用の薄底のシューズを作らなければならなかったというが、これによって日本市場に参入したい外資系ブランドは日本規格を作る必要がなくなった。藤原さんが言う。

「世界の潮流が箱根に来ているのがとても興味深い。ついにガラパゴスから脱した印象です」

 前出の金さんも、こう語る。

「箱根駅伝が世界に通用するマラソンランナーを創るという最初の理念に近づいてきた。ただ速さを求めるだけでは怪我をするだけですが、それに伴う筋力トレーニングやケア、栄養管理など、いろいろなことを同時にやっている大学が上位にきています。これまでは箱根駅伝が終わると燃え尽きてしまう選手がいることが弊害と言われていましたが、東京五輪がある今年、彼らのモチベーションはキープされています。箱根の成果を五輪につなげてほしいです」

(編集部・小柳暁子)

AERA 2020年1月20日号より抜粋