ただし、これは「対策をとらなければ」の話。実際には少しずつ世界は動き出している。

 厚労省の資料によると、世界の医療分野での抗菌薬の使用量(人口1千人あたりの平均1日使用量)はギリシャやルーマニア、ベルギーなどの国々で極めて多く、日本では必ずしも使用量が多いわけではない。家畜の飼料に混ぜるものや農薬に使うものも合わせると、日本国内で使われている抗菌薬はおよそ1700トン(13年)になる。

 注目すべきポイントとして加藤さんが指摘するのは、「セファロスポリン、その他のβラクタム」「キノロン」「マクロライド等」に分類される3種類の抗菌薬の使用量だ。日本は突然、トップのギリシャに次いで2番目の使用量になる。

「これらは多くの種類の菌に割と広く効く抗菌薬です。この『広い型』の抗菌薬に耐性を持たれてしまうと、『狭い型』の抗菌薬も含め、多くの抗菌薬が効かなくなることが多く、結構、たちが悪いと言われています」

 オニール・レポート以降、先述の通り、WHOは15年、AMRに対するグローバル・アクション・プランを採択し、国内でも16年から5カ年のアクションプランを策定した。適正使用などを進めることによって、対13年比で人への使用量は33%の削減などを掲げている。ただし、取り組みは世界中の国々にも同様に求められる。前出の菅井さんはこう警鐘を鳴らす。

「近隣で言えば、薬局で簡単に抗菌薬を入手できる東南アジアではやはり耐性菌がたくさん検出される地域になっていると思われます。人の流れがグローバル化するなか、各国が足並みをそろえて対策を取る必要があります。実際に東南アジアの国々でも、WHOや我々と連携して耐性菌動向の把握のための調査などが徐々に動き始めています」

 1928年、世界初となる抗菌薬、ペニシリンの発見以来、世界中で抗菌薬が開発されるようになり、耐性菌は増えてきた。これまでは、耐性菌が出る度に、新薬が開発されてきた。だが、新規の抗菌薬の開発事業は、停滞している。

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